やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

2018年8月ツイートまとめ(その1)





























































映画『検察側の罪人』 感想

忖度はあったのか


映画『検察側の罪人』を見ました。公式サイト↓
kensatsugawa-movie.jp
原作は未読です。
原作は雫井脩介。『火の粉』がめちゃめちゃ面白くて、そこから『ビター・ブラッド』『犯人に告ぐ』『犯罪小説家』を読みましたが、やはり『火の粉』がいちばん。皆さん、読んでください。
監督は原田眞人。原田さんの作品は『クライマーズ・ハイ』しか見てないな。そしてこの作品はNHKで放送した佐藤浩市のテレビドラマ版の方が面白いと思いました。


さて、この作品のいちばんの話題はもちろんキムタクとニノの共演。私はジャニーズ事情に疎いので詳しいことは分かりませんが、事件なんでしょ?でもこの事件も、SMAPがなくなったからできることなのかしら。同じ事務所内なのにこんな政治的事情があって、共演が事件になるなんておかしな話ですな。
ちなみに、私はキムタクを見たことがありません。元々テレビドラマを全く見ないので、ロンバケもラブジェネもHEROも見たことがありません。そうか、私は俳優としてのキムタクを全く知らないのか。知っているのはホリの「ちょ、待てよ!」だけだ。
まあ、それはいい。当初はジャニーズ映画だと思って見に行く気はなかったのですが、どうもそうではないらしい。社会派サスペンスとしてちゃんと面白いらしい。
そうなのか。じゃあ、見に行こうかな。


以下、ネタバレあります。


面白かったです。
事前に「原田映画はセリフが多くて編集が早いからついていくのが大変」「インパール作戦を知っておいた方がいい」という前情報を得ていたので、その辺は覚悟&予習して臨みました。


正義とは何か。「真実」のことなのか、法で裁かれた「結果」のことなのか。法で裁かれた結果は「真実」に基づいているのか、誰かの「意思」に基づいているのか。
あいつは時効になっただけで罪は犯した。じゃあ、別件であっても罪は償わせなければならない。これもひとつの正義の形。この事件ではこいつは犯人ではない。じゃあ、そのストーリーは無理がある。これもひとつの正義の形。
もちろん後者の方が正しいわけですが、個人的な思い入れがあるとそこは捻じ曲げられてしまう。権力を持った人間が間違った正義感を持つと、正義が変わってしまう。


物語終盤、最上(木村拓哉)は沖野(二宮和也)を呼び出し、政治の腐敗の追及を協力するよう依頼します。「お前は、俺の正義の剣を折ることがそんなに大事か。そんなことよりこの巨悪の追及の方が大事だろ」(セリフはうろ覚え)と沖野に迫りますが、沖野は首を縦に振りません。それが彼の意思。最上への尊敬と失望、大義と目の前の事実など様々な気持ちがないまぜになり、思わず叫ぶ沖野でエンド。
ここ、ラストで最上はハーモニカを吹く瞬間でしたが、ここはどういう意味があったのでしょうか。もし吹いていたら私はたぶん笑っちゃったな。


面白かったのですが、ちょっと気になったのは「動機」について。
最上は自ら殺人を犯してまで松倉を死刑にしたいと思い詰めていましたが、そこまでする?リスク大きすぎない?それだったら諏訪部(松重豊)に頼めばいいのに。「俺は人殺しの依頼はしない」といっていたけど、憎んでいない相手を殺すのと他人に頼むことの天秤が私には理解できない。
そして、諏訪部は何でここまで最上に尽くすの?なぜポチなの?この辺は原作では書いてあるのかしら。
橘(吉高由里子)は、検事を辞めた後だって既に材料はいろいろ揃っているんだから告発本書けるじゃん。最上の件を徹底的に調べようと思って沖野と行動していたのかな?


役者について。
キムタクは、キムタクでした。ずーっとカッコつけているのね。車から降りるところも家で家族と会話するところも、ずーっとカッコつけているのね。キムタクじゃん。
ニノは、「先輩扱いが上手く能力が高く何でもソツなくこなす秀才」なイメージ通り。当初の「最上さん、尊敬っす!」から「違うと思っているけど言えない」「違うんじゃないすか!やべ、言っちゃった。すんません!」まで、グラデーションが上手い。途中取り調べでキレるシーンはニノの論理的で嫌みな感じが上手かった。わざとキレさせるやり方。ニノじゃん。
吉高由里子は、取り調べの途中で涙を流すのは余計だったなー。あそこで泣くような女は潜入捜査官みたいなことできないから。もっと図太いだろ。
その証拠に、沖野の家に上がりこんでいきなりキスして火を点けておいて「2回目は大人の流儀で」と相手に責任を持たせるやり方、お前、吉高由里子だろ!何も知らない私の偏見に基づくイメージですが。


重要参考人だった松倉役の酒向芳さん、素晴らしかったです。あの気持ち悪さと何が本当か分からない感じ、素晴らしかったです。いい人を見つけてきた!キャスティングの勝利。
しかし、個人的には松重豊さんが本作のMVPでした。オープニングのニノとの丁々発止のやり取りからキムタクの影となって暗躍するブローカーまで、演技合戦で完全勝利。ちょうどこの日の予告編で「白松重」を見ていて「こんなの松重さんじゃない」と思っていたので、「黒松重」を堪能できてとてもよかったです。
ただし、松重さんと芦名星さんの「何でもできちゃうマンガ感」はリアリティねーな、と思いましたが。


あと気になったのは、説明セリフがいくつかあったなーと、「ジャニーズ忖度」はなかったのか?ということ。
ニノと吉高由里子がキスするシーン、2回目はそのままベッドシーンになだれ込むのですが、ここ、ニノからのキスは映さないのです。私だったら「キスしてそのまま倒れこむところでフレームアウト」にするけどなー。キスの場面すら映さないのかー。
さらにその後の事後のシーン。ここで女優の胸まで毛布がかかっているのは毎度「誰に向けて隠しているんだよ!観客がいる前提じゃねーか」と思ってしまうのですが、まあそれは仕方ない。目をつぶろう。しかし、ニノまで胸隠すかね。ここで乳首出さないのは忖度?
キムタクは遺体を庭に埋めるシーンで一生懸命穴を掘りますが、髪の毛は乱れないしタンクトップはあまり汚れないしタンクトップから乳首は浮かない。これも忖度?
と余計なことが気になってしまいました。


マイナスなこともいくつか書きましたが、トータルとしては「ジャニーズ映画」ではない、ヘビーな社会はサスペンスとして優れた作品でした。ちょっと詰め込みすぎかなーとは思いますが。
キムタク♡ニノ♡と思って見に来たお客さんは面食らうし付いていけないと思います。


<8/27追記>
そうだ、この映画で出てくる「インパール作戦」と「政府の企み」について書いておきます。
インパール作戦」は旧日本軍が行った無茶な作戦です。詳しくはこちらをどうぞ。
https://www.nhk.or.jp/special/plus/articles/20170922/index.htmlwww.nhk.or.jp
これは「可能かどうかをきちんと検討せず」「途中で無理だと分かっても撤回することをせず」、その結果多大な死者を出した、旧日本軍の最も無謀と言われた作戦です。
これって、今の日本でも変わらず起きていることですよね。ダメだと分かっていても取り下げず、損害が出ても誰も責任を取らない。
この映画では最上の祖父がインパール作戦の生き残りでその体験記を書いた、という形で何度かこの話が登場します。
これって、この作品の最上たちのことでもありますよね。松倉を犯人に「決めて」、そのストーリーに沿う形で取り調べを行う。しかし途中で別の男が犯人ではないか、松倉を犯人として起訴するのは無理ではないか、という流れになりますが、それでも最上たちはその事実を認めようとしません。そして結果的に最上は自ら事実を曲げる行いをするのです。
「白骨街道」を生き抜いてきた祖父の本を何度も読んできたはずの最上でさえ、「そうであってほしい真実」のためには事実を捻じ曲げるのです。人間は弱く、恐ろしい。だからこそ権力を持つ側は謙虚で慎重でなければならないのです。


もうひとつ、「政府の企み」について。
これって、原作もこういう扱いなのかしら?映画の中では名称は違うけれどはっきりと日本会議をモチーフにした団体が出てきて、その団体が政府と一体となって日本の右傾化を進めている、という扱いです。
原作通りなら問題ないけど、映画独自だったら脚本も兼ねた監督の意見、ということなのかな?
私も日本会議には反対派ですが、あまりあからさまに直截的な表現で出されると冷めちゃうなー、と思いました。


以上、追記でした。

メロディは才能、天からのギフト。

人はそれを天才と呼ぶ


あいみょんマリーゴールド』がとても名曲で、コードを当たったらめちゃ簡単でびっくりした。2カポで使っているコードはC・G・Am・Em・F、以上。こんな、ギター初めて1週間で弾けるようなコードだけでこの名曲を作ったのか!
で、このコードってスピッツ『チェリー』と同じなんですよ。この名曲もこの5つだけ。コード進行も王道そのもの。こんなベタで簡単なコード(誰でも知っている、誰でも弾ける、誰でも思いつく)なのに、誰も作れない、でもみんなが名曲だと思う曲を作るんですよ、このすごい人たちは。


メロディは、誰でも作れます。鼻歌でふんふんと歌えばあなたも作曲者。子供だってうんこちんちんの曲を毎日作っているじゃないですか。曲なんて、誰でも作れるんです。
でも、「いい曲」は誰でも作れるものではありません。「いい曲」って定義が難しいので、ここではざっくりと「世間でヒットする曲」というポップスでの話に絞ります。だって、クラシックの名曲は音楽理論知っていなきゃ作れないもんね。


曲は誰でも作れるのに、いい曲は誰もが作れるわけではない。音楽理論に詳しい人はたくさんいるけど、その人が名曲を書けるわけではない。ジョンとポールは最初から名曲を連発していたし、宇多田ヒカルは15歳で『First Love』を書いた。尾崎豊は当初は明らかに音楽的知識はなかったけど、10代で名作アルバムを3枚も作った。
草野マサムネヒロトマーシーがどれだけ音楽理論を知っているか私は知らない。長渕剛にしても中島みゆきにしても同じ。でも、彼らは何十年もシンプルなコードで名曲をいくつも作ってきた。
10年音楽を学んだ人が名曲を生み出せるわけではない。先月ギターに初めて触れた彼がいきなり名曲を作るかもしれない。


身もふたもない言い方ですが、「才能」ですよ。


いいメロディは、「キャッチー」という言い方をしますよね。耳をキャッチする。また、ヒップホップではサビを「フック」といいます。耳を釣り上げる、耳をひっかける。どちらもその通り!な言い方です。
「ここのA7のコードが肝!」「ここのレシラのシがポイント!」という分析はできますが、じゃあA7を使えば、シを使えば名曲になるかというと、当たり前ですがそんなことはありません。
キャッチーなメロディを作るには、やはり魔法が必要なのです。その魔法を使える人が才能のある人、なのです。


もちろん理論を分かっている方が長い目で見れば有利だし武器を多く持っていることは間違いないです。それでも、名曲を作れる人というのは、その上のゾーンにいる人なのです。
知識や技術や理論を超えた世界、中二病っぽくて楽しいじゃないですか。「僕なんて」と思って日々暮らしている童貞中学生がいきなり名曲を連発するかもしれないのです。ポップスはそういうところが面白い。


サザンオールスターズ『海のOh, Yeah!!』 感想(その2)

なんやかんやいうてもサザンは偉い


前回のお話はこちら。
ese.hatenablog.com
今回は2枚目、“Mommy” sideです。
1.東京VICTORY
もちろんいい曲ですが、どうしても「みんな頑張って」が気になってしまいます。桑田佳祐ともあろう人がこんなベタな歌詞を書いていいのか。
このモヤモヤはこの文章を読んで腑に落ちました。
takuyaonline.hateblo.jp

サザンは国民的なロックバンドで、それは言い方を変えると大衆的っていうことで、大衆の欲望に寄り添って、時代の空気をつかみながら、彼らが求めるものを提供していく。桑田佳祐という人はそれを自覚的に、自分自身のマニアックな嗜好と高いレベルで折り合いをつけながらやり続けてるところがものすごいわけです。こんなふうに歌詞の一節についてぐだぐだ考えてる自分みたいなひねくれたリスナーじゃなく、「頑張って」って言われて素直に「よし、頑張ろう!」って思えるような人たちに向けたメッセージをきっちり打ち出すことができる。しかも強いメッセージを伝えながらも、言葉が勝ちすぎていびつになることはなくて、音楽として心地よく聴けて、だから素直に受け入れられる。

2020年に向けてこの曲は盛り上げのアンセムとして各所で流れることになるでしょう。そのたびに「いい曲だ」と「モヤるな」の両方を思いながら聴くんだろうな。


2.ロックンロール・スーパーマン〜Rock’n Roll Superman〜
キラーストリート』のアルバム曲ですが、ツアーでは毎回演奏される桑田さん御贔屓の1曲。私も大好きです。
曲数多いとはいえ、あれだけシングル大量ぶっこみの『キラーストリート』において、この曲と『ごめんよ僕が馬鹿だった』はこのシングル群に引けを取らない強さを持っています。
テンポはゆったりめなのにバラードにはならず背中を押してくれる力強さを持っている。そして大量の風船が降ってくるライブのイメージが出てくる。


3.愛と欲望の日々
私、サザンの歌謡ロックに弱いのです。『匂艶 THE NIGHT CLUB』とか。マイナーコードは暗さではなく艶とか猥雑さを引き立たせるのだ。
漢字に本来とは違う読みや英語を充てたりするのも好き。『エロティカセブン』とか『愛の言霊』とか『シュラバ★ラ★バンバ』とか。これぞ桑田佳祐


4.DIRTY OLD MAN~さらば夏よ~
私、この曲が出たときは全然ピンときませんでした。それが、今回久々に聴いたら、いい!あれ?あのときの私、どうしちゃったんだろ。いいじゃん。
この曲は当時50歳を迎えた桑田さんが「もう若くないしな」という諦念とシャレと抗いを込めた曲で、当時はそのメッセージをストレートに受けてしまったからかもしれません。でも、今なお若々しく活躍している桑田さんを見れば、50歳なんてまだまだ若造。フレッシュで爽やかな曲に聴こえます。関係ないけど、『Young Love』の「現在10年経って若すぎた日々が妬ましい」なんて歌詞は、今からすれば「そう言っているあなただってまだまだ『若すぎた日々』ですよ!」と思ってしまう。いつだってその日がいちばん歳を取っており、いつだって振り返ればあの日は今より若い。


5.I AM YOUR SINGER
活動休止が決まっている中で、どんな曲を出すべきか。こんなプレッシャーのかかる曲作りそうそうないですよ。そこで桑田佳祐が出した答えがこれ。
ミディアムテンポで「僕は君のシンガー」と歌うこと。針の穴を通すような難易度ですが、見事穴を通しました!
正直、サザンのシングルベスト1かと問われればそうではありませんが、あのときの最善手だったと思っています。休止前のラストライブで演奏をカラオケにしてメンバー全員で肩組んで歌うのもよかった!


6.はっぴいえんど
『葡萄』はまだ時間がたっていないのでどの曲をベストアルバムに入れるべきかのジャッジはまだ私にはできない。しかし、この曲が選ばれたことに何の不満もありません。
この曲は、アルバムが出たときの感想にも書きましたが、セルフライナーノーツの「弘としては、サビのスネアのアクセントを2拍目に合わせたくなるのだろうが、そこを敢えてオール3拍目で合わせてもらった」という文を読んでから聴くと「確かに!」と思いますね。コピペ。
しかし、もう何度もこの曲を聴いたせいで、いまさら2拍目でも3拍目でも気にならないな。


7.北鎌倉の思い出
原坊のボーカル曲は評価の対象外なので何ともいいようがない。フレッシュでポップ。ポップだけどエッジがあるというか瑞々しいというか。いい曲です。
でも、これだけは書いておきたい。イントロの鍵盤のフレーズと、曲全体の弦のアレンジ、めちゃいい!桑田さんはいつも「原由子はカウンターメロディの天才」と言っていますが、まさにその通り。素晴らしいです。


8.FRIENDS
こ、これを入れるのか…。そりゃいい曲だけどさ、ベストアルバムには入れないでしょ。『亀が泳ぐ街』入れないでしょ。
舞台のために書かれた曲なので、あえての長尺。それをきっちり聞かせることのできる構成力やコーラスを多用したアレンジは素晴らしい。何より、メロディが強いから繰り返しても聴いていられるんだな。


9.ピースとハイライト
この曲を右だ左だという人は相手にしなくてよい。どうせ曲をきちんと聴かずにイメージだけで決めつけているのだから。
聴いたら分かるように、「みんななかよく」です。
でもなあ、サザンでシングルになるポップソングなのに、歌詞が強すぎる気もするんだよなー。


10.アロエ
この曲にも「明けない夜はないさ」「止まない雨はないさ」という『東京VICTRY』で感じたベタ表現があって気になるのですが、でもこの曲は四つ打ちビートなので、こういうストレートな言い方の方がいいのかもしれない。
それにしても、なぜ「アロエ」?


11.神の島遥か国
沖縄民謡の音階を使いつつリズムは洋楽というサザンならではのチャンポンソング。両A面で発売しましたが、シングルにするほどかなー。嫌いじゃないんだけどさ、シングルかなー。


12.栄光の男
おっさんの悲哀を歌った曲。最初はセクハラオヤジかよと思っていたのですが、今では「好意は持っているけどアクションはできないからわざと足が触れさせるので精一杯」と好意的に解釈するようになりました。肩に手を置くとかだとこれはセクハラ認定ですが、飲み屋で足が触れるくらいならセーフなのでは。相手の女性との関係性が一切ないので相手がどう思っているか分かりませんが、キモオヤジと思われてないことを祈ります。


13.BOHBO No.5
神の島遥か国』との両A面ソング。『マンピーのG★スポット』の次を作ろうとしたのかな?これも、シングルで出たときはあまりピンときませねした。ボーボ君がかわいくなかったから?
しかし、こうやって改めて聴くと「絶対に盛り上げる!」という桑田さんの執念を感じる曲になっていますね。構成や演奏のアレンジなど、これでもかと手数が細かく多い。そして、ラストの「グッバーイ!」で強制昇天。しかも2回も。この執念、『白い恋人たち』の「サビだけで十分名曲なのに、ラストどんどん盛り上げて『涙~』まで持っていく強さ」に通じるものがあります。
ライブでやられたらどうあがいても盛り上がります。執念は強い。


14.蛍
これは名曲だ。バラードでアレンジもゴージャス。名曲にうっとりして終わるのですが、実はこの曲3分ちょっとしかない。映画主題歌になるような大仰なバラードなのに、実はあっさりしている。何でだろ。桑田さんならもっと展開を増やしたりアレンジを工夫したりしてもっと長尺の大作に仕上げることもできたのに。
でも、このあっさりさがいいのかな。聴いているときはあっさりと感じないから、下手に付け足したらゴテゴテ感が出ちゃうかもしれない。


15.闘う戦士たちへ愛を込めて
新曲です。今回のアルバムで何度か「手癖」と書いていますが、この曲は新しい。まだこんな新しいメロディ書けるのかこの人は。
曲は映画の主題歌なので、それに合わせた社会批評の曲です。暗い曲が響く世相はあまりいいことではないと思うのですが、いい曲なんだから仕方ない。
この曲は間奏のハンドクラップの部分がいいですね。ライブでもお客さん全員でやるんだろうな。でも大会場だと反響で遅れて鳴るから気持ち悪い感じにならないかな。余計な心配だけど気になっちゃった。


16.壮年JUMP
少年でも中年でもなく、もはや壮年。曲はステージを去るアイドルに向けた内容。この時期だと安室ちゃんを想像しますが、桑田さんとしては安室ちゃんとデヴィッド・ボウイを思いながら書いたそうです。西城秀樹さんは曲ができた後に亡くなったので、この曲と直接の関係はありません。
安室ちゃんでも解散したバンドでも早逝したミュージシャンでも、投影するのは誰でも可能。それがポップミュージックの強み。なので、サザンを当てはめてもいいんだぜ。いつまでもあると思うな親とサザン。
この曲も、軽くて新しい。シングルとして出すよりは少し責任軽い新曲なので、こちらもあまり構えずに聴くことができます。うん、これでいい。


17.弥蜜塌菜のしらべ
完全生産限定盤のみに収録のこの曲は、タイトルの通り三ツ矢サイダーのCM曲です。これこそ、軽い。シングルのカップリングの感じ。雰囲気だけで作った感じがとてもいい。ノベルティソングなのでこれでいいのだ。
この曲、もしどこかに収録するとしても置き場所に困るので、ここに入れられたのはちょうどいい場所・タイミングだったと思います。



さて、2枚のアルバムについていろいろ勝手なことを書いてきましたが、読み返すと結構シビアな意見が多いな。自分で書いといて。
でもね、これらはすべて「サザンは名曲ぞろい」という大前提のもとに書いていることなので、そこをご了承ください。普通のミュージシャンならキャリアを代表する曲ばかりが詰まったアルバムで、それでもまだ文句を言う私。どんだけ期待値高いんだ。
あと、じっくり聴くとやはり桑田佳祐の「ポップへの執念」はすごい。メロディひとつ、コードひとつ、もっといいメロディやコードやリズムや展開やアレンジがあるんじゃないかと死ぬ気で模索して作っている感じがします。同じメロディでも1番と2番で歌い方変えていたり伴奏にアクセントがあったり、とにかく隅々までポップであるための工夫と情熱がすごい。
才能と情熱と執念がこれだけあって、表ではいつも軽く明るく「目立ちたがりの芸人です!」を40年続けてきたんですよ。そりゃ誰も勝てないわ。そりゃ国民的バンドだわ。
サザンなんて世間が知っているヒット曲代表曲はいくつもあって、いつどんな大きな会場でライブしても満員。だったら過去の栄光だけで飯食えるのに、まだ「新曲で勝負したい」と言っているんですよ。そして実際勝っているしね。もう打席に立つ必要なんてないのに、今でもホームランを狙っている。
還暦を過ぎたミュージシャンで、山下達郎小田和正など今でもいい曲を作ってライブもしている人はいますが、AKBやジャニーズやLDHに勝ちたいと思っている人はたぶん桑田佳祐だけ。その貪欲さと責任感はどこからくるんだろ。ファンはありがたいばかりでいつまでもついていきますが、くれぐれもお身体を大切に。健康がいちばんですから。


さあ、来年春から全国ツアーがあります。まだ詳細は発表されていませんが、このアルバムの曲をやるだけで大盛り上がりですが、もちろんその前の20年分の曲もやるわけで、そしたらどの曲やってもどの曲落としても、全曲大ヒットライブになることは間違いない。ああ、楽しみ。
そして、春まで何もないわけないよね。サザンのようなビッグプロジェクトは既に全部決まっているよね。何があるんだろ。年末のライブかな。秋は何かないのかな。
その辺も楽しみにしつつ、春を待ちましょう!


海のYeah!!

海のYeah!!

サザンオールスターズ『海のOh, Yeah!!』 感想(その1)

サザンは偉い


サザンオールスターズの40周年記念ベストアルバム『海のOh, Yeah!!』が出ました。20周年のときに『海のYeah!!』が出ていて、ここでは便宜上(入力が面倒なだけですが)「家盤」「親盤」と表記します。
家盤の20年と親盤の20年は歴史の厚さが違います。家盤はオリジナルアルバム12枚の中からのベスト、親盤は『さくら』『キラーストリート』『葡萄』の3枚の中からのベストです(最近は曲数も多いし『キラーストリート』は2枚組なので実質5枚分の物量はありますが)。間には桑田さんのソロもありますしね。
でもやっぱりそこはサザン、名曲ぞろいです。では、簡単にそれぞれの曲の感想を書いていきます。


DISC1 “Daddy” side
1.TSUNAMI
言わずと知れた、サザン最大のシングルヒット曲。個人的には「サザンの手癖の極み、ベタの究極」だと思っていて、そこまで大好き!というほどではありません。いや、もちろん「めちゃ名曲!」という大前提の上での話。
この曲は東日本大震災以降ライブでは演奏されなくなりましたが、そもそも「災害としての津波」の曲ではないですからね。「恋愛における感情の起伏」のことですから。まあ、そんなことは誰でも分かっているけど、「ツナミ」というワードが自主規制の対象だったのでしょう。
で、今回このアルバムに収録されたということは、そろそろライブでも解禁なのではないでしょうか。来年から始まるツアーで聴けると期待しております。


2.LOVE AFFAIR 〜秘密のデート
不倫ソングですが、曲としてめちゃ名曲!歌詞も不倫を否定も肯定もしていないのがいい。渦中にいるダメな男の歌。
昨今世間では「不倫=大罪!」になっていますが、『昼顔』のヒットでも分かるように、実はみんな不倫が大好きなのです。大好きというか、興味津々なのです。羨ましいのです。そうなんだろ?
繰り返しますが、この曲は不倫と関係なく曲としてとても名曲なのでヒットしたのです!


3.BLUE HEAVEN
そうか、この曲、シングルだったのか。あまり印象がないな。切ないメロディの名曲ですが、シングルにするほどの強さはないというか。アルバム曲だったらとても強い。『慕情』『せつない胸に風が吹いてた』『逢いたくなったときに君はここにいない』みたいな立ち位置。
この曲も「手癖ソング」だと思っています。コード進行がベタなんだよな。


4.イエローマン 〜星の王子様〜
この頃のサザンはどうかしていた。『01MESSENGER 〜電子狂の詩〜』(攻める)→『BLUE HEAVEN』(置きにいく)→『LOVE AFFAIR 〜秘密のデート』(ポップス成功)→『PARADISE』(攻める)→と来て本作。また攻めた!
個人的に、90年代末はサザンから心が離れていて、このあたりの一連のシングルはあまりピンときていません。レコーディング現場にデジタルの波が押し寄せてきている時代で、桑田さんもそれに乗っかって新しいことをやろうとしていたのでしょうが、あまりうまくはまらなかった印象があります。
確かにライブでは盛り上がりますが、音源として聴いたときに「名曲!」「シングル!」「ポップス!」という印象はありません。今回久々に聴いてもやはりはまらない。
実際売れ行きもイマイチで、開き直って「これぞサザン!」として作ったのが次のシングル『TSUNAMI』です。ここで腹をくくった桑田佳祐は、以降「国民的バンド」の看板を背負って立つようになります(私の想像ですが)。


5.SEA SIDE WOMAN BLUES
ハワイアンな曲調に日本の古いメロディ。加山雄三とか服部良一とかのイメージ。いい曲だと思いますが、歌がなぜこんなに後ろノリなのか。多少のタメはあってもいいけど、もう少しリズムにジャストな歌い方でも聴いてみたい。


6.彩 〜Aja〜
春っぽいキラキラした印象と寂しさの両面のある曲。Aメロのコード進行がオシャレ。G→C→D→C→Gだけど、ずっとonGなので、ベタに弾くよりオシャレに聞こえる。
2番に入るとAメロの裏にラッパも入ってより気持ちがいい。歌メロ以外のカウンターメロディがいい。
歌詞は以前の桑田佳祐のような意味を重視しない表現が多いけど、重くならないのでこれでいいのだ。


7.HOTEL PACIFIC
おお、この曲はアルバム初収録なのか。これはライブで爆発する曲ですねー。Aメロの歌詞にあるとおりギラギラした感じがいい。振りがあるのもいい。
2番ではAメロ終わりでギターソロにいくという構成もいい。ここでのギターソロもいい。
サザンのロックと歌謡曲のいいとこ取りがうまくはまった名曲です。


8.唐人物語 (ラシャメンのうた)
原坊曲です。原坊の曲は評価が難しい。というか、そもそも評価の対象外にある。チャゲアスチャゲ曲というか真心ブラザーズの桜井曲というか。いや、それともまた違うな。アルバムの中の清涼剤というか箸休めというか。
もちろんどの曲もいいしこの曲もいいのですが、特に語ることはないなー。ごめんなさい。


9.SAUDADE〜真冬の蜃気楼〜
ボサノバっぽくもあり、オリエンタルなイメージもある多国籍というか無国籍な曲。暗いけど結果ポップスになるという着地、桑田さんは何でもできるなあ。
こういう「アゲアゲ曲」でも「泣きのバラード」でもないミディアムな曲で、アルバム内の曲としていい曲を書けるのは本当にすごい。


10.涙の海で抱かれたい~SEA OF LOVE~
君こそスターだ』ではなく、こちらが当選。どちらも「ザ・サザン!夏!」なイメージの曲ですが、桑田さんの中では明確な優劣があるんだろうなー。桑田ソロの『波乗りジョニー』も含めて、私はもうどれがどれだか分からないしどれでもみんないい曲だよ!と投げやりになってしまう。
サビの4つ打ちでメロディが徐々に上がっていくのは、ライブでやられたらそりゃ上がる。水撒いてほしい!


11.私の世紀末カルテ
こういうフォークな曲は桑田ソロ用かと思いましたが、よく考えれば『ニッポンのヒール』とか『汚れたキッチン』とか、政治や社会批評の曲は昔からありましたな。
私はフォーク出身なので、こういう曲大好き。歌詞もさすが桑田佳祐。「闘うことや傷つくことは拒むけど 野暮な慰めにゃホロホロリ」「いくつになっても未熟な自分を愛しく思ってる そんな大人が幼い我が子に道を説いている」なんて、まさに今の時代にジャストじゃないですか!でも、10年後も「まさに今の時代のことを歌っている!」と思うはず。つまりは普遍な名曲ってことです。


12.OH!! SUMMER QUEEN〜夏の女王様〜
これが入るかー。こんなのカップリング止まりだろー。歌詞もメロディも擦り尽くしたサザン節じゃないか。歌詞の単調で安直なエロとダジャレもあまり好きではない。
いや、ライブで歌われたら盛り上がりますよ。ビキニのダンサーたちが出てきてサビで炎が上がるんでしょ。分かってます。盛り上がります。でも、ベスト盤収録レベルの名曲かと言われたらうーん。


13.LONELY WOMAN
冬の曲なので、ずっとせつなく寂しい言葉が並ぶ。Aメロはベタなコード進行ですが、Bメロからセブンス・メジャーセブンのコードでせつなさを表現。上手いなー。
ラストのサビ「メリークリスマス」の部分、メロディとしてもアクセントになっているし、この歌詞で冬の曲というイメージを確定させる。上手いなー。


14.01MESSENGER 〜電子狂の詩〜
上に書いたように、この頃のサザンはあまり好きではなく、この曲・パラダイス・イエローマンは本当に困ってしまっていました。あなたが着る服はそれじゃない。
しかし、今回久しぶりに聴いたら、あれ、カッコいいな。『イエローマン』はやっぱりイマイチですが、こっちはいいぞ。シングルバージョンだから?自分がフラットにこの頃の曲も聴けるようになったから?


15.限りなき永遠の愛
バラードは、簡単なようで難しい。テンポはゆったりしか選べないしリズムも8ビートが基本。泣きのメロディがメインなので、トリッキーなコード進行も難しい。つまり、既に出尽くしたカードで新しい曲を作らなければならない無理ゲー。
なのに、この曲は新しい。『キラーストリート』のDISC1のラストという立ち位置なので、バラードという安定感とまだ冒険してもいい自由度が上手く作用しています。
コードを見たら、結構工夫が凝らされていますね。ベタでも手癖でもない。きちんと構築されたメロディとコード。サビの横並びのメロディが高揚感とせつなさを両立させています。ブリッジの部分で印象を変えるのも素晴らしい。
名曲です。


16.素敵な夢を叶えましょう
バラード2連発ですが、それでもどちらにも似ず、どちらも名曲を作る桑田さんはほんとすごい。
こっちの方が王道のバラードです。コード進行も王道。しかしところどころ工夫されたコードも入っていて、凡百のベタにはならないところが桑田佳祐たる所以ですよ。サビ前の3連になる譜割りもいいですねー。
アルバム『さくら』のラスト、そしてこのアルバムのラストを飾るにふさわしい荘厳なアレンジも素晴らしい。


さて、ここまでで4,000字近く書いてしまったので、残りは次回に持ち越しします。全曲感想は長くなる。では、つづく。


海のYeah!!

海のYeah!!