やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

サザンオールスターズ『海のOh, Yeah!!』 感想(その2)

なんやかんやいうてもサザンは偉い


前回のお話はこちら。
ese.hatenablog.com
今回は2枚目、“Mommy” sideです。
1.東京VICTORY
もちろんいい曲ですが、どうしても「みんな頑張って」が気になってしまいます。桑田佳祐ともあろう人がこんなベタな歌詞を書いていいのか。
このモヤモヤはこの文章を読んで腑に落ちました。
takuyaonline.hateblo.jp

サザンは国民的なロックバンドで、それは言い方を変えると大衆的っていうことで、大衆の欲望に寄り添って、時代の空気をつかみながら、彼らが求めるものを提供していく。桑田佳祐という人はそれを自覚的に、自分自身のマニアックな嗜好と高いレベルで折り合いをつけながらやり続けてるところがものすごいわけです。こんなふうに歌詞の一節についてぐだぐだ考えてる自分みたいなひねくれたリスナーじゃなく、「頑張って」って言われて素直に「よし、頑張ろう!」って思えるような人たちに向けたメッセージをきっちり打ち出すことができる。しかも強いメッセージを伝えながらも、言葉が勝ちすぎていびつになることはなくて、音楽として心地よく聴けて、だから素直に受け入れられる。

2020年に向けてこの曲は盛り上げのアンセムとして各所で流れることになるでしょう。そのたびに「いい曲だ」と「モヤるな」の両方を思いながら聴くんだろうな。


2.ロックンロール・スーパーマン〜Rock’n Roll Superman〜
キラーストリート』のアルバム曲ですが、ツアーでは毎回演奏される桑田さん御贔屓の1曲。私も大好きです。
曲数多いとはいえ、あれだけシングル大量ぶっこみの『キラーストリート』において、この曲と『ごめんよ僕が馬鹿だった』はこのシングル群に引けを取らない強さを持っています。
テンポはゆったりめなのにバラードにはならず背中を押してくれる力強さを持っている。そして大量の風船が降ってくるライブのイメージが出てくる。


3.愛と欲望の日々
私、サザンの歌謡ロックに弱いのです。『匂艶 THE NIGHT CLUB』とか。マイナーコードは暗さではなく艶とか猥雑さを引き立たせるのだ。
漢字に本来とは違う読みや英語を充てたりするのも好き。『エロティカセブン』とか『愛の言霊』とか『シュラバ★ラ★バンバ』とか。これぞ桑田佳祐


4.DIRTY OLD MAN~さらば夏よ~
私、この曲が出たときは全然ピンときませんでした。それが、今回久々に聴いたら、いい!あれ?あのときの私、どうしちゃったんだろ。いいじゃん。
この曲は当時50歳を迎えた桑田さんが「もう若くないしな」という諦念とシャレと抗いを込めた曲で、当時はそのメッセージをストレートに受けてしまったからかもしれません。でも、今なお若々しく活躍している桑田さんを見れば、50歳なんてまだまだ若造。フレッシュで爽やかな曲に聴こえます。関係ないけど、『Young Love』の「現在10年経って若すぎた日々が妬ましい」なんて歌詞は、今からすれば「そう言っているあなただってまだまだ『若すぎた日々』ですよ!」と思ってしまう。いつだってその日がいちばん歳を取っており、いつだって振り返ればあの日は今より若い。


5.I AM YOUR SINGER
活動休止が決まっている中で、どんな曲を出すべきか。こんなプレッシャーのかかる曲作りそうそうないですよ。そこで桑田佳祐が出した答えがこれ。
ミディアムテンポで「僕は君のシンガー」と歌うこと。針の穴を通すような難易度ですが、見事穴を通しました!
正直、サザンのシングルベスト1かと問われればそうではありませんが、あのときの最善手だったと思っています。休止前のラストライブで演奏をカラオケにしてメンバー全員で肩組んで歌うのもよかった!


6.はっぴいえんど
『葡萄』はまだ時間がたっていないのでどの曲をベストアルバムに入れるべきかのジャッジはまだ私にはできない。しかし、この曲が選ばれたことに何の不満もありません。
この曲は、アルバムが出たときの感想にも書きましたが、セルフライナーノーツの「弘としては、サビのスネアのアクセントを2拍目に合わせたくなるのだろうが、そこを敢えてオール3拍目で合わせてもらった」という文を読んでから聴くと「確かに!」と思いますね。コピペ。
しかし、もう何度もこの曲を聴いたせいで、いまさら2拍目でも3拍目でも気にならないな。


7.北鎌倉の思い出
原坊のボーカル曲は評価の対象外なので何ともいいようがない。フレッシュでポップ。ポップだけどエッジがあるというか瑞々しいというか。いい曲です。
でも、これだけは書いておきたい。イントロの鍵盤のフレーズと、曲全体の弦のアレンジ、めちゃいい!桑田さんはいつも「原由子はカウンターメロディの天才」と言っていますが、まさにその通り。素晴らしいです。


8.FRIENDS
こ、これを入れるのか…。そりゃいい曲だけどさ、ベストアルバムには入れないでしょ。『亀が泳ぐ街』入れないでしょ。
舞台のために書かれた曲なので、あえての長尺。それをきっちり聞かせることのできる構成力やコーラスを多用したアレンジは素晴らしい。何より、メロディが強いから繰り返しても聴いていられるんだな。


9.ピースとハイライト
この曲を右だ左だという人は相手にしなくてよい。どうせ曲をきちんと聴かずにイメージだけで決めつけているのだから。
聴いたら分かるように、「みんななかよく」です。
でもなあ、サザンでシングルになるポップソングなのに、歌詞が強すぎる気もするんだよなー。


10.アロエ
この曲にも「明けない夜はないさ」「止まない雨はないさ」という『東京VICTRY』で感じたベタ表現があって気になるのですが、でもこの曲は四つ打ちビートなので、こういうストレートな言い方の方がいいのかもしれない。
それにしても、なぜ「アロエ」?


11.神の島遥か国
沖縄民謡の音階を使いつつリズムは洋楽というサザンならではのチャンポンソング。両A面で発売しましたが、シングルにするほどかなー。嫌いじゃないんだけどさ、シングルかなー。


12.栄光の男
おっさんの悲哀を歌った曲。最初はセクハラオヤジかよと思っていたのですが、今では「好意は持っているけどアクションはできないからわざと足が触れさせるので精一杯」と好意的に解釈するようになりました。肩に手を置くとかだとこれはセクハラ認定ですが、飲み屋で足が触れるくらいならセーフなのでは。相手の女性との関係性が一切ないので相手がどう思っているか分かりませんが、キモオヤジと思われてないことを祈ります。


13.BOHBO No.5
神の島遥か国』との両A面ソング。『マンピーのG★スポット』の次を作ろうとしたのかな?これも、シングルで出たときはあまりピンときませねした。ボーボ君がかわいくなかったから?
しかし、こうやって改めて聴くと「絶対に盛り上げる!」という桑田さんの執念を感じる曲になっていますね。構成や演奏のアレンジなど、これでもかと手数が細かく多い。そして、ラストの「グッバーイ!」で強制昇天。しかも2回も。この執念、『白い恋人たち』の「サビだけで十分名曲なのに、ラストどんどん盛り上げて『涙~』まで持っていく強さ」に通じるものがあります。
ライブでやられたらどうあがいても盛り上がります。執念は強い。


14.蛍
これは名曲だ。バラードでアレンジもゴージャス。名曲にうっとりして終わるのですが、実はこの曲3分ちょっとしかない。映画主題歌になるような大仰なバラードなのに、実はあっさりしている。何でだろ。桑田さんならもっと展開を増やしたりアレンジを工夫したりしてもっと長尺の大作に仕上げることもできたのに。
でも、このあっさりさがいいのかな。聴いているときはあっさりと感じないから、下手に付け足したらゴテゴテ感が出ちゃうかもしれない。


15.闘う戦士たちへ愛を込めて
新曲です。今回のアルバムで何度か「手癖」と書いていますが、この曲は新しい。まだこんな新しいメロディ書けるのかこの人は。
曲は映画の主題歌なので、それに合わせた社会批評の曲です。暗い曲が響く世相はあまりいいことではないと思うのですが、いい曲なんだから仕方ない。
この曲は間奏のハンドクラップの部分がいいですね。ライブでもお客さん全員でやるんだろうな。でも大会場だと反響で遅れて鳴るから気持ち悪い感じにならないかな。余計な心配だけど気になっちゃった。


16.壮年JUMP
少年でも中年でもなく、もはや壮年。曲はステージを去るアイドルに向けた内容。この時期だと安室ちゃんを想像しますが、桑田さんとしては安室ちゃんとデヴィッド・ボウイを思いながら書いたそうです。西城秀樹さんは曲ができた後に亡くなったので、この曲と直接の関係はありません。
安室ちゃんでも解散したバンドでも早逝したミュージシャンでも、投影するのは誰でも可能。それがポップミュージックの強み。なので、サザンを当てはめてもいいんだぜ。いつまでもあると思うな親とサザン。
この曲も、軽くて新しい。シングルとして出すよりは少し責任軽い新曲なので、こちらもあまり構えずに聴くことができます。うん、これでいい。


17.弥蜜塌菜のしらべ
完全生産限定盤のみに収録のこの曲は、タイトルの通り三ツ矢サイダーのCM曲です。これこそ、軽い。シングルのカップリングの感じ。雰囲気だけで作った感じがとてもいい。ノベルティソングなのでこれでいいのだ。
この曲、もしどこかに収録するとしても置き場所に困るので、ここに入れられたのはちょうどいい場所・タイミングだったと思います。



さて、2枚のアルバムについていろいろ勝手なことを書いてきましたが、読み返すと結構シビアな意見が多いな。自分で書いといて。
でもね、これらはすべて「サザンは名曲ぞろい」という大前提のもとに書いていることなので、そこをご了承ください。普通のミュージシャンならキャリアを代表する曲ばかりが詰まったアルバムで、それでもまだ文句を言う私。どんだけ期待値高いんだ。
あと、じっくり聴くとやはり桑田佳祐の「ポップへの執念」はすごい。メロディひとつ、コードひとつ、もっといいメロディやコードやリズムや展開やアレンジがあるんじゃないかと死ぬ気で模索して作っている感じがします。同じメロディでも1番と2番で歌い方変えていたり伴奏にアクセントがあったり、とにかく隅々までポップであるための工夫と情熱がすごい。
才能と情熱と執念がこれだけあって、表ではいつも軽く明るく「目立ちたがりの芸人です!」を40年続けてきたんですよ。そりゃ誰も勝てないわ。そりゃ国民的バンドだわ。
サザンなんて世間が知っているヒット曲代表曲はいくつもあって、いつどんな大きな会場でライブしても満員。だったら過去の栄光だけで飯食えるのに、まだ「新曲で勝負したい」と言っているんですよ。そして実際勝っているしね。もう打席に立つ必要なんてないのに、今でもホームランを狙っている。
還暦を過ぎたミュージシャンで、山下達郎小田和正など今でもいい曲を作ってライブもしている人はいますが、AKBやジャニーズやLDHに勝ちたいと思っている人はたぶん桑田佳祐だけ。その貪欲さと責任感はどこからくるんだろ。ファンはありがたいばかりでいつまでもついていきますが、くれぐれもお身体を大切に。健康がいちばんですから。


さあ、来年春から全国ツアーがあります。まだ詳細は発表されていませんが、このアルバムの曲をやるだけで大盛り上がりですが、もちろんその前の20年分の曲もやるわけで、そしたらどの曲やってもどの曲落としても、全曲大ヒットライブになることは間違いない。ああ、楽しみ。
そして、春まで何もないわけないよね。サザンのようなビッグプロジェクトは既に全部決まっているよね。何があるんだろ。年末のライブかな。秋は何かないのかな。
その辺も楽しみにしつつ、春を待ちましょう!


海のYeah!!

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