RADWIMPS「絶体絶命」 感想
超えてしまった
東日本大震災があってから、野田君は「いとしき」という支援サイトを立ち上げています。そう、このアルバムは「絶体絶命」ではなく、「いとしき体いとしき命」なのです!
いやー、ほんとすごい。このアルバムは個人的にはラッド史上最高傑作なので、なかなか言葉にするまで時間がかかっています。それなのにこんな話を聞いたらまた唸るしかありません。
いやー、ほんとすごい。
今までのラッドは「絶対神彼女」に捧げる曲が多く、そして最近は「生と死」を扱う曲が増えてきました。そして今回は「ひとりぼっちのアルバム」です。恋愛モードの曲は一切なし。
「生と死」「自分と世界」に向き合い、ありったけの言葉とメロディーを詰め込み、撒き散らしています。
本当にすごい。
もともとバンドの演奏技術は高く(ここがバンプとの最大の違い)、様々なタイプを演奏できるのがこのバンドの強み。
前作「アルトコロニーの定理」ではそれがある種の到達点に達したように感じましたが、今回のアルバムでも同じかそれ以上の演奏を聴かせてくれています。
「DADA」のヘビーかつポップなハイパーミクスチャーなアンサンブル、「狭心症」のAメロで聴かせるギリギリまで我慢した1音、など、高い演奏技術はもちろんですが、それ以上に「バンド」として、「曲の一部」として、それぞれの楽器が鳴っているように感じました。
私が初めてラッドを知ったのはメジャーデビューしてからなので、アルバムでいうと4枚目からです。まさに「発見」「衝撃」「発明」というべき出会いでした。
それが次のアルバムではさらに高いレベルで音楽が鳴らされているにもかかわらず、「慣れて」しまっていました。
そして今回の6枚目。「慣れて」しまっているはずなのに、衝撃は一番大きかったです。
アバンギャルドなのにポップな「野田節」メロディーはさらに自由度とキャッチーさを増し、ポップなのに真実をえぐる歌詞はさらに研ぎ澄まされ、生きているのが嫌になるくらいに生命力を注ぎ込まれ、前向きに生きようとしている軽い決意を根本からへし折るような絶望感を打ちつけられるような衝撃。
話は逸れますが。
私は笑い飯が好きなのですが、彼らがなかなか優勝できなかった最大の理由は「あまりにも衝撃的な漫才のスタイルに私たちが慣れてしまったため」だと思っています。
初登場の衝撃、2回目の「奈良民族博物館」など、最初のハードルがあまりに高すぎて、その後は「さあ、どんだけ面白いものを見せてくれるのか」と構えられてしまったところが、非常にもったいないというか、可哀相だなと思います。
昨年のM−1グランプリでは瞬間最大風速ではスリムクラブに軍配が上がりましたが、やはり地肩・地力の違いは今年になって見えてきましたね。
「慣れ」を超えた強さが今の彼らにはある。
もうひとつ。
私はヒップホップが好きなのですが、メロディー要素の薄いヒップホップがなぜ他の音楽ジャンルより強いかというと、言葉の強さ、韻の面白さ、グルーヴのノリの良さ、などが挙げられます。
しかし。
今回のアルバムは、それらを「超えてしまっている」のです。
ラッドという衝撃には慣れたはずなのですが、今回は曲と歌詞と演奏でその「第一印象」という衝撃を上回る楽曲のパワーを持っています。
また、ヒップホップが既存の音楽ジャンルに勝っているはずの上記の部分でさえ「超えてしまっている」のです。
何度も言いますが、今回のアルバムは本当にとんでもない。
こういうアルバムがヒットチャートのメインストリームにいるのは恐ろしくもあり、心強くもあります。「芸能」に負けない「音楽」がここから生みだされていくことを期待しています。
次回は全曲感想を書きたいと思います。
※この文章は2011年3月に書いたものです。
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