「種まき」と「手段と目的の変化」について
柴那典「ヒットの崩壊」の感想(というか本書に書いてあることについての私の意見)の続き。
前回のエントリ↓
ese.hatenablog.com
今回は「第三章:変わるテレビと音楽の関係」「第四章:ライブ市場は拡大を続ける」について。
長時間の音楽番組が増えた理由として、本書では東日本大震災を経て「絆・音楽のちから」という側面から始まり、「フェスの文化を取り入れた」ことにより拡大・定着したとある。
TwitterなどのSNSを片手にテレビ番組の「体験」を共有する。長時間の放送なので、すべてを見ることは難しい。そこで見たい部分だけ見て、その状況や感想を呟く。確かにフェスっぽい。
なるほど。しかし、私はそれだけではなく単純に「番組制作費の節減のため」という実も蓋もない理由があると思っている。2時間番組を3本作るのと6時間番組1本作るのだったら、後者の方が確実にコストは安い。セットや出演者のギャラといった費用的な部分もそうだし、企画や制作の手間という労力の部分でもそうだし。
それでもいい。「テレビはオワコン」なんて言われながら、いまだにテレビを超える「不特定多数に伝えるメディア」はない(というか伝わる数を考えたら近いメディアすらまだない)のだから、テレビで音楽を放送してくれるのはとてもありがたい。コラボ企画もテレビでないと実現しないものだし。
テレビの役割は「紹介」になった。(略)局所的な熱狂が起こっているものを一つの現象としてその外側に伝えることが、テレビの果たす役割の一つになっている。
その通りだと思う。しかし、だからこそテレビでは歌手の定番曲だけでなく、新曲も歌わせてほしいと思うのだ。長時間の放送で一人当たりに使える時間を増やすことは可能なのだから、定番曲と新曲をどちらも歌わせてほしい。
テレビの役割はライブや動画サイトで人気になった人たちを「紹介」するだけなのか。他人が育てた果実をいただくだけなのか。せっかくテレビという最強のメディアを持っているのだから、「種まき」の部分も担ってほしい。
第四章はライブ市場の拡大について。
ライブ市場が拡大しているのは、ライブはCDと違い「複製できない一回性の体験」だからという側面が大きい。
ライブの現場は、単に生の迫力や臨場感を味わうだけでなく、それをオーディエンスが主体的に作り出す場所である。音楽はただ「聴く」だけのものではなく、そこに「参加する」ものになっているのだ。
これも同意するが、今はそれが「目的」ではなく「手段」になっていると思う。
目的は「ライブを見る」ではなく「盛り上がること」。主役は「フェスやミュージシャン」ではなく「自分」。盛り上がっていることの証拠や可視化のためのFacebook・InstagramやTwitter。極端にいえばインスタのために盛り上がる現場に行く、もしくは「インスタでアピールできるから現場に行く」という状態になっていると思う。
フェスやライブは盛り上がるためのツールなのだ。そういう意味では、夏祭り・スキー・カラオケ・BBQ・海・ディズニーやUSJといったレジャーと並列な存在になっているのだ。音楽は特別な存在ではない。
ese.hatenablog.com
↑これは2013年のエントリでここではSNSへの言及はないが、「盛り上がるため」という手段と目的の変化については今と同じことを書いている。
こういうことを書くと怒る音楽ファンもいるだろうが、「ブーム」とは「熱心なファン以外にも広がること」なので、こういう存在がいるからライブ市場が活況であることは喜ぶべきだろう。もちろんそのせいでチケットが取りづらいとかマナーの悪いお客がいるとかマイナス面もあるが、ライブにお金をかけることができ、そのおかげで素晴らしい演出を見ることができるプラス面もある。
CDが売れなくなっていき、ライブの重要性が高まったとしても、SNSの普及がなければここまでライブ市場の拡大はなかったと思っている。
YouTubeなどお金を払わなくても音楽を聴くことができるようになったが、ライブはそこに行かなければ体験することはできない。だからお金を払ってもライブには参加する。
違うと思う。間違いではないが、それだけではないと思う。CDにお金を出さない人が交通費等も含めさらに高額なライブにそんな簡単にお金を出すだろうか。そこには「仲間と楽しむ」「楽しんでいる自分アピール」があるからこそ、参加の背中を押しているのではないだろうか。
ライブ市場拡大の要因は「参加・体験」ではなく、「参加者が主役」なのだと思う。しかしそれはフェス主催者がよく言う「あなたたちが主役です(だからマナーよく、ゴミも捨てないでね)」ではなく、SNSの中の個人個人が主役ということだ。
今回はここまで。テレビは既知の名曲を紹介するだけではなく新曲や隠れた名曲も紹介してほしいし、ライブ市場はこの活況がずっと続いてくれることを願う。音楽は手段になったとしても熱いファンには目的のままだし外部に広めるにはいろいろな方法があっていいと思う。
- 作者: 柴那典
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2016/11/16
- メディア: 新書
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