集団心理、同調圧力、疑心暗鬼、村八分
映画『楽園』を見ました。公式サイト↓
rakuen-movie.jp
改めて予告編見ると、いろいろ出ちゃってるね。もっと隠していいのに。
原作は未読です。
12年前の少女失踪事件、そしてまた起きた少女失踪事件。果たして犯人は…。という話のようで、この映画はそういうお話ではありません。犯人は劇中では明示されません。それよりも、犯罪は起こした人だけが悪いのか、なぜその人は犯罪を犯すに至ったのか、被害者の心の持って行き所、集団心理の怖さ、悪い人とそうでない人の曖昧な線引き、などを描いた作品です。
12年後に再び起こった少女失踪事件。捜索に集まった近所の住人たちは「あそこの黒人が怪しい」「あの外国人では」「それよりも、あいつだ。12年前の捜索で俺が娘のランドセルを見つけるのを邪魔した」「それだ」「そいつだ」「そいつに違いない」と沸き立つ住人たち。
そして勝手に家に押し入り、部屋を荒らす。そんなところに出くわしたら、豪士(綾野剛)でなくても逃げ出しちゃうよねー。しかも彼は幼い頃から外国人(ハーフ)としていじめられてきた。その思い出とリンクしてパニックになる豪士。結果、焼身自殺してしまいます。
これで事件は解決、と思いきや、少女は無事見つかりました。豪士のアリバイもありました。それでも住人たちは「自分たちは何もしてない」「どうせ12年前の事件はこいつが犯人」という思いで、気にもとめないし罪悪感もない。自分たちが追い込んだから、彼をずっと疎外してきたから、とは思わないのです。
でもここ、集団心理のまとまりが早すぎて、ちょっと稚拙に見えました。いくら小さい集落とはいえ、いくら緊急事態とはいえ、さすがにそんな一足飛びにそんな決めつけ結論に至らないと思うので、誰かが「でも…」くらいの反対や戸惑いを表明して、それでも突っ走る誰かがいたためもう止められない流れになっちゃうとか、それくらいの段階が欲しかったなー。渋々付いていく人も、だんだんイケイケになるとかの変化も描いてくれればなおよい。
新しく村に入ってきた善次郎(佐藤浩市)は、村興しの提案をして村長に認められる。しかし、自分一人で役場へ交渉に行ったことが村長のメンツを潰したとされ、集落から疎外され始める。さらに久子(片岡礼子)との仲も疑われ、完全に村八分になってしまう。
そして、亡き妻との思い出までも潰され、ついに善次郎は凶行に走る。
田舎めーーーー!!!同じ田舎者として、分かる・恥ずかしい・憎らしいといろいろな思いが去来しました。メンツって何だよ!事務手続きしてあげただけじゃないか!善次郎だって久子だって配偶者とは死別して双方フリーなのに。そしてゴミの回収もわざと善次郎のものはしないとかお墓にいたずら書きするなど、いくら村八分としても異常だよ。これを「村の掟を破ったから仕方ない」みたいな謎理論で認める村の人たちは異常だよ。
その結果として起きた凶行。果たして被害者と加害者はどっちなのでしょうか。この「事件」はどこがスタートなのでしょうか。頭がおかしくなった加害者だけが悪いのでしょうか。
12年前の少女失踪事件で直前まで被害者と一緒にいた紡(杉咲花)は、12年後の現在でも自責の念を抱き続けている。豪士のやさしさにふれる出来事もあり、彼の死亡にまた心を痛める。
ラストで豪士の母親と出会い、「あなたも彼に救われた(ああ、セリフ忘れてしまった!)」という言葉に動かされる紡。愛華ちゃんのおじいさんの「そう思わなきゃやってられない(これもセリフ忘れた!)」という言葉も同様。過去の出来事もすべて受け入れて、引きずって、生きると決めた紡。
ラストで豪士が愛華ちゃんの後をつけていく映像は、紡の想像です。紡も、愛華ちゃんのおじいさんと同じように「そう思うこと」で過去を受け入れ、昇華させようとしたのでしょうか。
豪士も善次郎も、周りの人たちに翻弄され、迫害され、悲しい結末を迎えます。
私はこの作品を見て『ジョーカー』を思い起こしました。『ジョーカー』は主人公アーサーをじっくり描くことでその周辺(社会)の問題を浮かび上がらせましたが、『楽園』は周辺(社会)をしっかり描くことで中心にある問題を浮かび上がらせようとしています。手法は逆ですが、どちらも「社会が起こす(かもしれない)悲劇」を描いています。
これが「表現」だよなー。直接描かずとも、見ている人には分からせる描写と脚本。観客の力(リテラシー)を信用した表現であり、そうでない人は門前払いする表現。何度も反芻してどんどん味が出てくる。様々な角度から見てようやく全体像がおぼろげながら見えてくる。
役者と登場人物について。
●綾野剛
こういう弱々しい役も上手いけど、個人的には『日本でいちばん悪い奴ら』みたいなイケイケの役の方が好き。本人的には前者なんだろうけど(だから『閉鎖病棟』もあんな役)。
彼と柄本明だけ12年の経過が分かりにくくて残念。12年前はもっと若く、12年後はもっと中年になっていたらよりいいのに。と書きながら、20歳と32歳、25歳と37歳なんてそんなに違わないね。いやでも、せめて髪型くらいは。
●杉咲花
たくさん映画もドラマも出ていますが、クックドゥのCM以外私は見たことなかった。ちゃんと見ると川口春奈のように美しいのに、劇中では地味な女の子に見えるから女優ってすごい。
●佐藤浩市
カッコいいイケオジなので、ラストで狂うところでもまだイケオジなのがもったいない。髪の毛も髭ももっと汚れていいのに。
温泉のシーンは、久子もある程度その気だったからこそ混浴したのに、がっつきすぎて引かれてしまう悲しい結末。勉強になります。
●片岡礼子
40代後半で美人なのに脱げる人って貴重。週刊現代や週刊ポストを愛読しているオヤジのどストライクな熟女っぷり。
『黄昏流星群』みたいな簡単な惚れっぷりはどうかと思いますが、息子がその辺上手くツッコミしていてバランスが取れていました。そして、「好き」とは別に善次郎に思いを寄せて同情するのはよく分かる。
温泉のシーンは、ヌードになるだけで乳首は積極的に映さなくていいのに。「結果映り込んだ」くらいでいいのに。
●村上虹郎
私、彼のことずっと苦手です。演技が上手いと思ったことないです。目力は認めますが、演技上手い?本作でも相変わらずうむむと思いながら見ていました。
闘病中の眉毛はメイク?抜いた?どっちからしら。
●黒沢あすか
豪士の母親、黒沢あすかだったのか!全然分からなかった!女優ってすげえ。カタコトの日本語はそんなに上手くなかったけど、「汚ったなさ」が素晴らしかったです。
●柄本明
柄本明だなー。
●根岸季衣
12年後の認知症の姿、リアル!素晴らしかったです!
- 作者: 吉田修一
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