やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『パラサイト』 感想

コメディ→サスペンス→そして


映画『パラサイト』を見ました。公式サイト↓
www.parasite-mv.jp
さいたま新都心のMOVIXで鑑賞。
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朝イチの回だったのに、なかなかの盛況ぶり。この作品の話題性や期待度が分かる客の入りでした。


さて、本作については監督自らが「ネタバレしないで!」と言っていますし、実際何も知らずに見た方が楽しめるので、まだ見ていない人はここで画面は閉じ、映画館へ走ってください。




みんな走って行ったかな?






それではネタバレ感想です。
面白かった!
「ネタバレ厳禁」というから伏線だらけで設定そのものが何かしらの仕掛けでラストでどかーんとひっくり返るのかと思っていましたが、さにあらず。
想像している展開はことごとく裏切られ、あれよあれよいう間に全く別の世界に連れて行かれる。エンタメ作品で作ってありながら、見終わった後は現実の社会について考えてしまう重なったレイヤー。
そもそもこの作品、ジャンルは何?コメディの体裁で始まり、途中(夜のピンポン)からサスペンスに、そしてラストはホラー?レンタル開始したらTSUTAYAではどのジャンルに割り振るのだろうか。


オープニングのキム家リビングからの風景(見上げると地面があり、そこで酔っ払いがゲロ吐いたり小便したり)、Wi-Fi環境を求めてうろうろし、ようやくトイレで電波をキャッチする生活環境。家族で内職をしてミスがあっても言い訳で丸め込もうとするしたたかな性格の長男、女房の尻に敷かれている夫婦関係、能力はあるのに仕事のない娘。説明セリフはひとつもないのに全部分かる完璧な状況説明。


半地下に暮らすキム一家が高台の富豪パク一家に寄生していく序盤は、あえてコメディ風味を強めに描いているので、「そんな上手くいくかなー」という部分もコメディで気にならない。それどころか、この部分は奥様の純真な感じがこの不自然さをコメディ強化に転化させているのでプラスになっている。奥様、素晴らしかった!


一家揃って寄生完了後、何となく自分たちも富豪の仲間入りをした気分になっちゃうキム一家。俺が彼女と結婚したら、あの運転手可哀想だったな、この幸せは明日からも続いていくぞ…。
そこでピンポン!ここからこの作品変わっていく!


何とこの豪邸には地下室があり、そこで暮らしている人がいた!
ここでタイトルの「半地下」が生きてくる!本当の地下があった!
すっかり富豪側気分のキム一家からすれば、地下の住人なんて自分たちのさらに下層の人たち。そして真相を知られたら今の生活はなくなってしまう。
さらにパク一家が戻ってくる!逃げたいし隠したいし、サスペンスとコメディとパニックのジャンルてんこ盛り!
※ここの「盗み聞きをしていたキム一家が足を滑らせて見つかっちゃう」という部分だけわざとらしくてもったいなかった。何かもう少し自然なきっかけがほしかったなー。


何とか逃げ出せたけど、キム一家の家は水浸し。確かに高台のパク家でも大雨だったけど、それが下界では洪水。別世界だから。
ここ、ひたすら坂を階段を下りていく描写が切ない。現実に近づけば近づくほど現実は厳しくなる。逆流するトイレに座って諦めの表情をする娘がよかった!


翌日、天気は晴れ。高台では単なるいい天気、下界では大災害。高台では息子の誕生日パーティー、下界では避難所の体育館で配給の服を着る。この差。
この場面は、天と地の差、天国と地獄の差ってだけでなく、高台の富豪たちは下界の貧民たちのことなど気にしていないということがなお切ない。もちろんニュースでは知っているかもしれませんが、それは「自分の生活とは関係ない、情報としてのニュース」であり、自分と地続きの出来事だとは思っていないのです。別世界だから。


そしてクライマックス。
地下室の住人が凶器を振るい、パニックになるホラー展開。乱入者を退治したかと思いきや、社長が乱入者の臭いに思わず鼻をつまむ瞬間、父ギテク(ソン・ガンホ)の感情に火が点き、社長に包丁を突き立てる!
この場面についての解釈で迷っています。ギテクは、これまでも何度も臭いについて気にしていましたが、あの場面では社長が鼻をつまむことで自分が否定されたと感じたのか(地下室の男と自分を同一視したのか)、あいつと一緒にするなと思ったのか(「高台の富豪>半地下の自分>地下のあいつ」という差別意識)、どちらなのでしょうか。どなたか教えてください。


事件後、息子が父親を助け出すための「計画」を語り、見ている私たちは「そんな上手くいくかなー」と思ったところでそれはまだ「計画」に過ぎないことを知ります。そうなったらいいなーという未来に思いを馳せ、そんな上手くいかないよねーという現実を考える。寄生しても、入れ替わることなんてできない。


素晴らしかったです。
近年、『万引き家族』『天気の子』『ジョーカー』『楽園』『ひとよ』など、格差社会が引き起こすドラマ(それは多くが悲劇だ)を描く作品が多いのはなぜだろう。私が見ていない作品も含めればもっともっと多い。
格差社会が現実のものとして定着しつつあり、それに対する問題意識がこういう作品を生み、その問題意識を支持する人たちが多いということなのかな。この「問題意識」は、これではいけないという上からの意識と、こんなクソ社会ぶっ壊れちまえばいいという下(渦中の人たち)からの意識の両方を差す。


ただ、パルムドール獲るほどかなーとも思いました。
前半はいくらコメディタッチとはいえ寄生が簡単すぎるし(女子高生が家庭教師に簡単に惚れすぎ、も含む)、地下室の男が階段の電気を点ける装置はどこで上の住民の移動を把握しているのか不明だったし、富豪の息子がキャッチしたモールス信号が物語に影響ないし、あれだけ頭から出血したらさすがに死ぬだろとか。
しかし、そんなのは重箱の隅をつつくだけの些末な意見。絶対に面白いから見るべし!


役者も皆さん素晴らしかったです。
父親役のソン・ガンホは当たり前の安定の出来、息子のイケメンではないけどブサイクでもない、頭良さそうではないけど悪そうでもない「ちょうどよさ」、娘のオンとオフの違い(娘MVP!)、母親の西原理恵子のようなふくよかな二の腕、富豪の社長のいい人っぽさ(本当に優秀な人はいい人が多い)、上にも書いたけど純粋さを体現している美しい奥様、まだおぼこいから簡単に惚れちゃう富豪の娘、こちらも「ちょうどいい」家政婦の顔(母親役の人もそうだけど、こういう美人でない太めの女性役者が日本には少ないなー)。皆さん素晴らしかったです。