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映画『望み』 感想

テレビ監督


映画『望み』を見ました。公式サイト↓
nozomi-movie.jp
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原作は未読です。つーか、原作が雫井脩介さんだとは知らずに見に行っていました。雫井脩介さんは『火の粉』があまりにもよくて、それ以降読んだ『ビター・ブラッド』『犯人に告ぐ』『犯罪小説家』などはそこまではまらず、というファン歴です。


出ている役者さんや作品のテーマは私好みですが、気になるのは堤幸彦監督作品ということ。私はテレビドラマを見ないので『トリック』も『SPEC』も知りませんが、映画『20世紀少年』『BECK』はどうにも絶賛できる内容ではなく、近年の映画監督作品も監督名で遠慮しちゃう状況でした。


さて、どうなる。


物語は面白かった、演出はうーむ。でした。


息子は加害者(殺人者)か、被害者(亡くなっている)か。父は犯人でないことを望み、母は生きていることを望む。
無実であれば亡くなっていても仕方ない。息子は人に暴力を振るうような子ではない。無実を信じる父。
生きてさえいれば犯人でも構わない。覚悟を持って事実を受け入れる。今の生活がどうなっても構わない。生存を信じる母。
そうか、「望み」ってそういうことなのね。


犯罪に関与している(かもしれない)という状況だけでもヘビーですが、そこで家族の「望み」が違うというすれ違いも描く。おお、新しいな。
娘は「兄が犯人だと困る」という立場。私立高校の受験を控えた今、身内から犯罪者が出たら受験どころではない。それどころか、転居や転校もありえる。それは「困る」のです。利己的かもしれませんが、素直な本心です。


物語としてはとても面白かったのですが、少し気になった点を。
冒頭、建築士の父はお客に自宅を公開し、リビングだけでなく子供部屋や浴室までお客に見せます。いくら事務所が隣だとしても、そこまでする?中高生の子供部屋を、まったくの他人に見せる?
ここはキャラ紹介のためだけだったのかな。私は「仕事熱心で家族の仲もいいと思い込んでいる父」に見えて、それが何かの伏線だと思っていたのですが、特に何もなし。あの父でいいのか。


失踪した息子が容疑者かもしれないということでマスコミに追われる一家。この家がこんな状況なんだから、他の失踪者の家だって同じ状況のはずなのに、途中まで「他の失踪者は警察が明かさない」ということで情報なし。そんなことないよねー。SNSでいろいろ書かれるでしょ。警察が明かさなくてもマスコミは押しかけるでしょ。
そして、いつのまにか「現場から逃げたのは2人、失踪者は3人、だから残りの一人は死んでいる」が確定情報みたいになっていたけど、それだって単なる推測ですよね。まあ、それがなきゃ「殺人者か死亡か」という究極の望みにならないから仕方ないけど。


もうひとつ。細かいことですが、息子のLINEがアイコンなし。高校生のLINEでアイコンがデフォルトのままのわけねーだろ。そういうディテールにこだわってよ。


それでも、物語は面白かったです。たぶん原作のおかげ。しかし、演出はうーむ、でした。


カット割りやカメラアングルは突飛なことをやらずに見やすくてよい。アップが多いなーとは思いましたが。
しかし、音楽とスローモーションが気になって…。
緊迫した場面で緊迫した音楽!ショッキングな場面でショッキングな音楽!感動する場面で感動的な音楽!ベタではない、下手だ。テレビのワイドショーじゃないんだから。
そして、エモい場面では何度でもスローモーション。スローモーションの演出、ダサくね?
母が何度も息子のことを思って泣くシーンや息子の部屋で小刀を見つけた父のシーンとかも、長い。「ここ、感動する場面ですよー」の念押しがダサい。大丈夫、観客は分かるから。もっと観客を信じてくれよ。


また、息子が見つかってからが長い。もっとさっぱりと終わってよいよ。火葬場で遺影をじっくり見せたり(チラリで分かるから!)、火葬場の廊下を歩いて待合室に入り家族の肩に手を置くとか、いらなくね?葬式→部屋に骨壺、でよくない?
赤い工具箱も、「これ、重要ですよー。覚えておいてねー」としつこくじっくり映す。分かるから!大丈夫だから!


確かに分かりやすいですが、映画館で集中して見ているお客にとってはクドい感じがするのです。テレビドラマならこれでよいのかもしれませんが。
堤幸彦監督がテレビドラマでは評価され、劇場作品ではそうではないのは、こういうところなのかな?私はどちらもあまり見ていないので断定はできませんが。


あー、物語は面白かっただけに、他の監督が手がけたらもっと面白かったかもなーと思うとちょっと残念。
でも、いい点もありましたよ。
まず、あの家。住宅展示場のモデルハウスのようなステキな家(内装はセットだそうです)と、隣の事務所。オープニングは周辺の街をドローンで映すので、周りの状況も含めてぴったり!よくぞ探したな。
そして車は黒のハリアー。うむ、ぴったり。
あと、役者の皆さんはみんな素晴らしかった!警察の二人は除く。なぜあんな無愛想・能面にするのか。


堤真一
役者として、上手いなあ。私の中で役所広司などと同じ「上手い役者」の箱に入っています。どの場面も上手かったですが、中でも息子の遺体と対面する場面。手を伸ばして息子に触れたいけど現実を受け入れたくない葛藤が上手かった!
石田ゆり子
基本泣いて息子を案じるだけなので、評価は難しい。アップに耐えるお肌と髪の毛は美しい。
●岡田健史
無口な息子。高校生男子は親に「別に」「普通」「ちょっと」しか言わないのでその点は合格。しかし、言い方があまりしっくりこない。サッカー部と帰宅部(私)の違いか。
●清原果耶
可愛いのはもちろんですが、演技がまあ上手い上手い。言い方から間から表情から、完璧じゃないか。言うことなし。
松田翔太
ちょうどいい怪しさ。ラストの取材を断る場面は、いい奴すぎないか。もっとゲスいキャラでいいのにな。自分はやりたいけど編集長に却下されたとかでいいのに。


望み (角川文庫)

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