やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『万引き家族』 感想

悪い人ではない、ダメな人なのだ


映画『万引き家族』を見てきました。公式サイト↓
gaga.ne.jp
是枝監督作品で見たことあるのは、『誰も知らない』『空気人形』『奇跡』『そして父になる』『海街diary』『三度目の殺人』です。


さて、本作はカンヌ映画祭パルムドールを獲ってしまったため、映画を見ない人にまでこのタイトルや内容についてやいやい言われております。君たち、映画見た?見てないでしょ。ただ是枝監督を嫌いなだけでしょ。もし映画を見たうえで「万引き肯定映画だ!」と言う人がいたら読解力ゼロなので無視して構いません。
この映画は万引き描写はありますが肯定的ではないし、悪人を描いた作品ではありません。悪人ではなく、ダメ人間です。


是枝監督は、これまでもずっと「家族とは何か」「何をもって『家族』なのか」「善悪ってそんな簡単に白黒つけられる?」「それぞれの人にそれぞれの事情がある」ということをテーマに作品を作っていますが、本作はその集大成といっていいのでは、という出来でした。


(本作は役の名前はいろいろややこしいので、役者名で書きます)
万引きは悪いことです。この作品でも「食うに困ってやむを得ず」という状態ではありません。転売目的で釣り竿盗んでいるし。
しかし、虐待されていた子供を見かねて家に連れてくる優しさもあります。人間は多面的です。
とはいえ、この家族(特にリリーさん)は中長期的な視点・考えを持っていません。虐待はかわいそうだけど、本当に連れてきたら誘拐だし、お金がないからと子供を学校に行かせないとか葬式出さないとか、その場はよくてもその後はよくない。文字通りの「その日暮らし」です。


レグレクトから救った子供は世間から見れば誘拐だし、元の家庭に戻ればめでたしめでたし。しかし、戻された子供は再び虐待を受ける。その子にとってどっちが幸せなんだろうね。
こういうときは児童相談所に知らせるのがベターなのでしょうが、この家族はそういうことを(多分)知らないし、面倒だからやらない。
この映画は、「こっちが正しい・間違っている」と断ずることをしません。ラストの警察の取り調べで正論を突きつけられる安藤サクラは「確かにそうだけど、そうかなあ」「やったことは間違っているけど、間違っているのかなあ」とぐちゃぐちゃした感情をさらけ出します。
ここ、ものすごく素晴らしい演技でしたが、これは安藤サクラには台本渡さず、監督がその場で何を訊くのか池脇千鶴に指示していたそうです。それであんなセリフ・表情・演技ができちゃうの!監督の手腕と役者の技量がスパークしてできた素晴らしいシーンでした。


神は細部に宿る。リアリティはディテールに宿る。もので溢れた家の中、「食卓を囲む」ではなくそれぞれが勝手に食べている旨そうで安そうな料理、食べ方や箸の持ち方の汚さ、デザイン無視で暖かい・涼しいの機能性のみの服装、古く汚い風呂場。貧しい家庭ってこんな感じ、ととても納得するビジュアルでした。


説明セリフはまったくなく、リアリティあるやり取りの中からそれぞれの関係性が見えてくる見事な脚本でした。『海街diary』で気になった「アレ」というセリフは本作でもちょいちょい使われており、これもリアリティを増す効果を生んでいました。


この作品は「この家族ってどういうつながりなの?」「この家族、どうなっちゃうの?」というミステリーの側面もありますが、子供の成長というのも大きな物語の推進力。
物語序盤、父親との連係プレーで万引きを楽しんでいた城桧吏(じょうかいり)君は、妹(佐々木みゆ)ができて素直に受け入れられない。その後徐々に「きょうだい」になっていき、兄としての威厳(上手く万引きができるんだぞ)を見せつけたり、一緒にセミ取りをしたりします。しかしある日駄菓子屋の主人(柄本明)に万引きを咎められ、罪悪感を抱きます。あれ、今までしてきたこれって、悪いことなのか?「お店の商品はまだ誰のものでもない」「お店が潰れなきゃいいんじゃない」という「親から教わった自分内倫理」も、父親は車上荒らしをするし、駄菓子屋は閉店する。あれ、自分のしてきたことって、悪いことなのか。そして妹をかばって万引きをして怪我してしまう。
これをきっかけにこの家族は崩壊するのですが、こんなのは遅かれ早かれこうなるのは自明なので、彼が悪いわけではない。
施設に預けられた桧吏君はやっと人並みの勉強をすることができ、成績も上位(クラスで8位と言っていた)になります。家庭って、教育って、大事。
11歳なのに小学2年生の国語の教科書しか勉強するツールがなく、学校に行っている子は「家で勉強ができないから」と教えられ、「忌引」の字が読めない(これは小学生だったら無理か)から万引きのせいで駄菓子屋が閉店したと思ってしまう。教育って、大事。
そして何だかこの間に成長している。顔つきも変わって背も伸びている。リリーさんと別れ、バスの中でリリーさんを見ながら「父ちゃん」と呟く桧吏君。うわーん、途中のフリをばっちり回収してるじゃーん。泣くじゃーん。


もう一人の子役、佐々木みゆやちゃん。家に連れてこられた当初のおどおど感が、徐々にほどけていく。髪の毛を切った頃に完全にこの家族の一員となって、子供らしい快活さを取り戻す。
いやほんと、是枝監督の子役演出は毎回すごすぎる。演技が上手いではない、アドリブが上手いでもない、ドキュメンタリーじゃん!これは、空気づくりとそれを受ける周りの役者陣のナイスアシストのおかげでもありますね。
ラストのひとり遊びから外を眺める場面、あそこは「外には別の世界がある」ということを知っている、ということなのでしょうか。ラストカットの直前で少し動いたので「もしかして飛び降りちゃうの?」と少し思ってしまいました。


その他、役者陣は見事のひと言。皆さん優勝!横綱!王様!みたいなメンツの中、安藤サクラが天下統一を果たしましたね。いやほんと、全員素晴らしい。
それでも、松岡茉優のおっぱいに触れないわけにはいかない。この子、こんなけしからんおっぱいしてたのか!あんなに細いのに、こんなけしからんおっぱいしてたのか!けしからん!
JKリフレのお店でスカートをたくし上げてオナニー演技をする場面でカメラがすっと動いてパンツを映さない撮り方には「こらー!」と思いましたけど。


主要キャストが素晴らしいのはもちろんですが、脇で出ている役者も素晴らしい。心に傷を負った池松壮亮、外面のいい(見た目もイケメン・美人)の山田裕貴片山萌美、正しく正しい高良健吾池脇千鶴、皆さん素晴らしい。
ちょっと話は逸れますが、私、片山萌美さんは素晴らしい女優さんだと思うのですが、いかんせん美人すぎて背が高くておっぱいが大きくてくびれがあって、セクシーすぎる。小池栄子と同じ「エロスが強すぎ問題」があってこれが役者として足を引っ張っているような気がしてかわいそう。


過去の是枝作品よりは物語に動きがあるし着地もしっかりしているのでエンタメ性はありますが、それでも善悪どちらにも寄せないという描き方が「泣けなかった」「感動しなかった」という感想も生んでいるようです。
いやあのね、勧善懲悪や号泣シーンなどの分かりやすさないとダメなの?「泣けなかった=感動しなかった」ではないよ(同様に「泣いた=感動」でもない)。監督が描いたこの物語から、どう思うかはあなた次第です。感じ方まで指示されないとダメなんて、エンタメ含む「文化インポ」ですよ。


とにかく映画館で見てください。説明はないけど分かりやすい、分かるけどレイヤーは幾層にも渡り、重層的に楽しめる、素晴らしい作品です。


是枝作品エントリ↓
映画「誰も知らない」 感想 - やりやすいことから少しずつ
映画「空気人形」 感想 - やりやすいことから少しずつ
映画「そして父になる」 感想 - やりやすいことから少しずつ
映画「海街diary」 感想 - やりやすいことから少しずつ


↓公式サイトや小説ではこのフォントですが、映画では単なるゴシック体なのはなぜなんですか?

万引き家族【映画小説化作品】

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