やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画「テッド」 感想

下がれ、スーザン・ボイル


私は、海外のコメディ映画が苦手です。ずっこけるような笑いは「くさっ」と思うし、言葉で面白いことを言われても「私日本人だから分かりません」になってしまいます。「面白いセリフ」も、文化や文脈を理解して、さらに適切な間で適切な言い方で面白いセリフが出て初めて「面白い」になるので、そのハードルたるや、相当高いです。
そんな底意地の悪い私ですが、この「テッド」は何だか評判がいいらしいので、気になって見に行きました。


最近の映画は予告編でおいしいところをほとんど見せてしまうので、予告編は見ないようにしています。
本編を見た後で予告編を見ると、アクションシーンのすごいところは予告編で全て網羅されていたり、ラストの重要なセリフが予告編で出ちゃったりしているので。
なので、この映画に関しても「クマのぬいぐるみが悪いキャラ」「そのクマは有吉弘行が吹き替えやっている」「下ネタなどが多すぎてR15になっている」くらいの前知識で見に行きました。
普段は映画館で見る場合は字幕を選ぶのですが、今回は有吉の毒舌が見たくて吹き替えを選択しました。


始まり始まり。
オープニングの、ユニバーサルのブランドロゴからそのまま家の上空までワンショットで見せるオープニングにまず興奮。ここは本編とは関係ない演出ですが、これだけでつかみはOKです。
そしてオープニングまでの間に「クマが意思を持つこと」「それが世間に知られれば大評判になること」「それでもしばらくすると飽きられ・慣れて、大したことないことになること」が語られます。これで今後この世界でテッドが動き回る違和感は無くなります。
オープニングのキャスト紹介などの最後に「日本語吹き替え監修:町山智浩」というクレジットが。これは期待できる!さらに私はテンション上がりました。


オープニングのテッドは可愛い。私は「可愛い」と「愛している」の機能が失われた欠落人間ですが、そんな私でも可愛いと思えるクマさん。
それが、オープニングが終わるといきなり大麻を吸いながら「あの女のイクときの声聞いたか?」だって。いいね、期待できる。
その後も薬・毒舌・下ネタ三昧なのですが、町山さんの翻訳監修により「文化が違うから分からん」がだいぶ少なくなっていました。
例えば「星一徹」なんていうセリフがありましたが、これはもちろん直訳ではありません。でも、直訳で翻訳されても私たちは分からないと思うのです。なので、これは正解の翻訳だと思います。
そういう翻訳の中で私が一番気に入ったのは、テッドに愛想を尽かした主人公ジョンが「くまモンの方がいい」と言うセリフです。これ、日米両方知っていないと出来ない翻訳ですよね。
ただ、それでもアメリカの有名人などのネタではついていけない部分もありました。でもそれもこの映画の評価を下げるものではありません。コメディの翻訳としてはとても上手くできていると思います(私がコメディ映画をほとんど見ないので評価は難しいですが)。


そもそも、映画としてよく出来ています。
各キャラクターの説明、悩みやアクシデント、その解決に向かう道筋、前半のフリを活かしたクライマックス、感動のシーン、めでたしめでたしのエンディング。
過去の名作のフォーマットは外さず、この映画の強みであるぬいぐるみや下ネタ・毒舌を活かしたストーリーです。映画として上手く出来ている!


もうひとつ私がこの映画を好きなのは、主人公ジョンとテッドの関係性がフラットで特別なところと、それを上手く「あるある」ではなく「分かる分かる」で描いているところです。
ダウンタウンがガキ使のフリートークで二人だけで爆笑している場面のような関係性と、くだらないけど二人の中ではあるルールがあるところ。
男はいくつになっても子どもなんです。くだらないことで面白がるのです。


さらにもうひとつ。主人公ジョンの彼女であるロリーが、とても素晴らしい女性だということです。
彼氏は周りから見れば35歳のうだつの上がらない男性ですが、彼女からすればイケメンや稼ぎはどうでもよく、彼の人間性に惚れているのです。職場の上司である金持ち御曹司の誘いにも全くなびきません。ジョンのくだらない笑いにもついていくし、ジョンとテッドの濃すぎる関係も理解しようと努めます。どうですか、彼女。素晴らしいでしょ。私もこんな人に出会いたい。


と素晴らしい映画なのですが、少しだけツッコミ入れていいですか。
まず、恋敵である金持ち御曹司が、そんなに悪い奴じゃないということ。もっとパワハラしたり変な性癖があれば分かりやすいのですが、そんなに悪い奴に見えないので、このまま御曹司と結ばれるのも悪くないんじゃない、と思ってしまったのです。まるで「めぞん一刻」の三鷹さんのよう。
もうひとつは、ノラ・ジョーンズの部分が浮いて見えるということです。いきなりノラのコンサートに飛び入りするなんて、「急にどうした?」と思ってしまいました。前半でノラとテッドの関係性(元カレ・元カノなど)を描いておけばよかったのに。
このシーンも直接何かにつながってこないし。まあ、ノラのショートカットが可愛かったのでいいんですが。


平日の昼間ということで客数は少なかったのですが、女性が多く、私の近くに座っていた女性は声出して笑っていました。下ネタなど女性が笑いにくい部分もあるかもしれませんが、だからこそのR15ですので、女性でも大声で笑ってもらいたいです。
「おっさんのためのファンタジー映画」だと思っているのですが、ぜひ女性の感想を聞きたい。


オススメです!宇多丸さんにハスリングしてもらいたい。



映画『テッド』予告編