やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画「凶悪」 感想

リリーとピエールがこんなに怖いとは


前々から見たかった「凶悪」をようやく見ました。
山田孝之ピエール瀧リリー・フランキー。ナイスキャスティング

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こんな楽しくて穏やかな人たちが、超怖かった!


オープニングから瀧さん悪すぎ。悪すぎて本人そのものにしか見えない。拘置所で面会するときのしおらしい瀧さんも本人。この振り幅に説得力を持たせるのは普段の瀧さん。
リリー・フランキーも悪すぎ。判断基準は金になるかどうか。後半、瀧さんと一緒になって老人を虐待し死に至らしめる場面ですら「悪ふざけ」「イッツァパーリーナイッ!」くらいの楽しさ。それが余計に怖い。そして、役から離れてもこの二人が悪ふざけしたらこんな感じになりそうでそれも余計に怖い。
本当にキャスティングの勝利。


これ、実話なんですよ。
殺人事件って憎しみの行きつく先だったり強盗の成り行きだったりしますが、こういう「金になるから」という動機としては「軽い」ものも結構あるんだろうな。
金になるから殺す。死体は燃やせばいいや。ダメなら埋めときゃいいや。酒いっぱい飲ませてその辺に転がしておけ。何て軽い。罪の意識はありません。判断基準は法律や道徳ではなく、金になるかどうか。何て軽い。何て怖い。


焼却炉で死体を焼いている様子を見て「肉食べたくなっちゃうな」なんて言う場面の次がクリスマスパーティーで子どもが肉を頬張る場面。何て悪趣味で上手いつなぎ!
さらに、子どもが勉強している場面から夫婦がセックスしている場面までワンカットで撮影するなど、いい意味で子どもをスリリングに使っています。
こういう映画に出る子役って、完成した映画を自分で見るのかな。とても教育によろしくない。出演させる親はどんな気持ちなんだろ。
(「恋の罪」ラストの小学生にも同じことを思った)


山田孝之は、もちろん素晴らしい。彼は善悪どっちやらせても上手いなあ。そして、彼の妻である池脇千鶴の「可愛いけど薄幸」はやはりステキ。
しかしそれよりも、山田孝之認知症の母親(吉村実子)が素晴らしかったです。ボケていることに気づかない、本人はちゃんとしているつもりでもとんちんかんな言動や、嫁を叩いてしまうときの叩き方など、とてもリアルでした。
この嫁が母に叩かれている場面は夫である山田孝之が目撃するのですが、それでも何もしないのは少し逃げ過ぎじゃないか、と思いました。さすがに現場を見てしまったら何かアクションして欲しい。家に帰った後に「私、叩かれたんだよ」という嫁の話を聞き流す、とかでもいいけど。


後半、嫁は夫の仕事ぶりを批判しながらも「でも、自分も楽しかった」と言います。そしてラストではリリーさん(先生)が「俺を死刑にしたいのは…」と言いながら拘置所の面会ガラスを指でつつきます。
これは、正義感が行き過ぎた山田孝之(藤井)を指していながら、野次馬で正義を振りかざす私たち一般市民にも向けられている言葉なのでしょう。
確かにそれは分かりますが、藤井の正義感は利己的な動機ではないし(実際の先生のやったことを考えれば、確かに死刑にならないのはおかしい)、一般市民の興味も野次馬的なスキャンダラスな興味だけではないと思うので。
物語の着地としてはいいけど、ちょっと青クサい感じもしました。


とはいえ、怖くて面白い傑作でした。
瀧さんとリリーさんのお二人は同時期に「そして父になる」にも出演されており、同時に見たら混乱しそうだな。あんな子煩悩な顔して恐ろしい素顔が…。あんな殊勝な顔して暴力的な素顔が…。


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