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映画「ソロモンの偽証 前篇」 感想

坊主憎けりゃ袈裟まで憎い


「ソロモンの偽証」を見てきました。原作は文庫2巻目の前半まで読んだ、という中途半端な状態なのですが、もうすぐ後編が公開されるので前篇がいつまで上映されているのか分からず、駆け込みで見に行きました。
公式HP↓solomon-movie.jp


結論から書くと、とっても不満でした。しかし、ネットで皆さんの感想を見てみると、高評価が多い。何でだ。



ほんとこれ。映画的快楽がない。
私は映画の見方は全く分かっていないのでカット割りや照明や音楽の入れ方などには全くの無頓着ですが、それでもこの撮り方には違和感を覚えました。
死体発見前後の描写はこの映画のつかみであり「死体発見」という状況自体もショッキングなので映像的に見せ場なのに、なんだか上手くない。このカット割り!とかこの引き!とかの映像的な面白みがない。
あと、初登場の登場人物が後ろ向きのまましゃべるシーンがいくつかあるのですが(安藤玉恵が校長に意見するシーンや後任の校長先生がしゃべるシーンなど)、初登場の人がわざわざ後ろ向きでしゃべるのは何か意味があるのかな、と思ったのに何もない。じゃあ、わざわざ後ろ向きのまましゃべらせなきゃいいのに。単に誰か分からず不親切なだけ、に感じました。


私は雪国出身なのです。なので、オープニングで雪道を普通のスニーカーで歩いている時点で「んなことない」と思ったし、裏門から校内に入る際も雪に全く埋もれない。いやいや、夜からずっと降り続いていた新雪なら、校門飛び越えて着地したらズボっといくよ。あれ、実はそんなに積もっていないのかな?と思っていたら被害者は体丸々埋もれるほど積もっているんでしょ。じゃあ、あのさあ…。
まあ、ここは「雪国あるある」かもしれません。しかし、その後雪から飛び出た「手」を見つけ、死体を掘り出す場面。ここが気に入らないのです。
まず、二人で校内に入っているんだから、見つけたら「あれ何?」など、何かしら二人でのやり取りがあるでしょう。そして「マジで?」「掘ってみる?」など興味と恐れとためらいがあってから行動に移るはずです。なのに、何も言わずすぐ行動に移る主人公。
そして、掘るなら出ている手の部分から掘るでしょう。何で関係ない部分を掘っていきなり顔を掘り出すの?掘り出した後の映像は手の部分は手つかずで、顔だけ掘り出されていました。どういう掘り出し方だよ!
これでもうケチがついてしまい、その後はツッコミ目線で見てしまったため、物語を純粋に楽しむことができませんでした。
(「サマーウォーズ」のオープニング「婚約者の振りをして」にノれなかったため本編も面白がれなかったのに似ている)


この後も文句が続きますのでご了承ください。
主人公の藤野涼子さん。意志の強そうな顔はとてもよいのですが、映画中、ずっと同じ顔(意志の強そうな顔)しかしません。途中、意志の強そうな顔なのか無表情なのか分からなくなりました。これは彼女の責任ではありません。そういう演出をした監督の責任です。


学年イチの秀才君は発言が大人び過ぎている。中学生のこまっしゃくれた生意気な発言はもちろん現実でもあるでしょうが、それでも中学生らしい「中途半端な知識と追い付いていない表現方法」など、どこかいびつで可愛らしい感じになるはずなのに、彼は本当に理路整然とし過ぎている(生徒に暴力を振るった先生に対して「暴力」と「体罰」の違いを述べる場面)。
ついでにいうと、あの場面で血を流したりほっぺたにビンタの跡がついているのも不要だと思いました。やり過ぎだし分かりやす過ぎる。
関係ないけど、この秀才君はクリープハイプ尾崎世界観に似ているな、と思いずっと見ていました。


あと、血が出過ぎ。
上記のビンタでも血が出るし、中学生が女子に対するイジメでも血が出るし、不良が中学生を殴って血が出るし、夫婦喧嘩で血が出るし。血が出るって、大事ですよ。体罰とかイジメとか喧嘩ではなく、傷害事件ですよ。そうなるとこれらの出来事の重大さのレベルが変わってくる。
この女子に対するイジメでも、歩道橋があるような交通量の多いところであんな大声出して騒いでいたら誰か気づくし通りかかりますよね。もっと校舎裏などでやればいいのに。
ついでにこの歩道橋で柏木君の「藤野さんは何で何もしないの。君こそが偽善者だ」と詰め寄る場面。これが彼女の「嘘」にあたるのでしょうが、それ以前に「じゃあ、お前が行けよ!」と思ってしまった。まだ前篇なので柏木君の意思が不明の部分もありますが、「そんな正論言っているお前はどうなんだ」の方が強くて、藤野さんの「嘘・罪悪感」に思いが至りませんでした。
夫婦喧嘩のシーンも、あんなホラーテイストな顔芸や動きはしなくていいのに。怖すぎる。


中学生たちの演技。
皆さん経験が少ないので上手くないのはしょうがないのですが、発言が順番通りすぎて「コントかよ」「高校の演劇部かよ」と思ってしまいました。吹奏楽部の部員が裁判に参加する件(くだり)とか裁判の準備を話し合う場面とか。ついでにいうと、浅井さん(事故に遭った太っている子)がセンターになって写っている吹奏楽部の集合写真があるのですが、デブの子がセンターを取って写真に写ることは絶対にありませんから。
オープニングでクラスのみんなに柏原君の死を伝える場面。本当の中学生だったらあんな反応になるかな?もっと「マジかよ!」「何で?」などのリアクションがあって、それから泣いたりするんじゃない?まだどういう死亡かも分かっていない(事故なのか殺人なのか自殺なのかなど)のに、あんなに分かりやすく泣くかな。
ついでにいうと、もちろん警察が大勢来ているはずなので、生徒が誰も何も知らないというのはおかしいし、担任が生徒に伝えるなら通知表を配っている最中ではなく、まず初めに言うはずだし。
演技が上手くないのはしょうがないのですが、台詞がちゃんとしすぎ。中学生があんなにはっきりしゃべることなんてないし、敬語もあんなに上手く使えない。1のことを説明するためには10くらい言葉を使わなければしゃべれないのが子どもです。逆に友達同士なら10のことを1しか言わないのが子どもです。なのに、常に過不足なくしゃべる。この辺は是枝監督にメソッドを習った方がよいと思います。
藤野さんと神原君の初対面でも、同い年ならぎこちないタメ口でしゃべるもんだと思うのですが、敬語での会話。うーん、ちゃんとし過ぎ。
ドランクドラゴン塚地さんの演技もコントっぽいな、と思いながら見ていました。普段彼の役者としての演技を見ないので何とも言えませんが、普段からあんな?じゃあ、役者としてはイマイチじゃない?


時代考証
映画の舞台は1990年と1991年です。でも、その時代を感じさせる風俗描写がないのです。90年なんて街並みなどは今とそんなに変わりませんが、ファッションやメイクや髪型などはその時代独自のものがあります。テレビで過去の映像が出てきて時代を感じるのはこういったファッションの部分が大きいです。なのに、それがない。
確かに登場人物は中学生とその親世代がメインで若者はほとんど登場しないのですが、それにしてもこんなに何も感じないものでしょうか?ワンレンボディコンとは言いませんが、普通の格好だって時代感は出るはずなのになあ。ファッションに興味がない私ですらそう思うんだから、詳しい人が見たらどう思うんだろう。唯一といっていい時代感は永作博美のソバージュ。
逆に、街並みのシーンでスマブラ大乱闘スマッシュブラザーズ)の旗(のぼり)がバッチリ映っていて笑ってしまいました。公開までに何度も試写したはずでしょ。誰も気づかないの?気づいたけど直さないの?この程度ならCGで何とでもなりそうなのにな。プロ意識の低さにがっかり。


原作との違い。
原作は長いので端折るのはOKです。設定を変えるのもOKです。担任の女性教諭が「自分がきれいなことを分かっていて、面倒なことは避けたがっている」という設定が「単に若くて純粋な女の子」になっているのもいいんです。物語の筋としておかしくなっていないから。柏木君のことを過剰に恐れているのは、後篇で理由が明らかになるのでしょう。
野田君の家庭環境の話が全くないのも、よいカットだと思います。
ただ、柏木君の家庭描写が一切ないのですが、これはどういうことでしょうか。被害者の家族が事件(事故?)や学校に対してどう思っているのか。ここは全カットでいいのかな。
不良グループのリーダー大出君のお父さんの性格が真逆になっているのですが、これはよいのでしょうか。どちらも喧嘩っ早いのは同じなので表面的には変わっていないように見えますが、原作では息子を溺愛する父親、映画ではDV親父になっています。
自分の教育方針が間違っていないと思っているから周りにも強く出るし息子の不祥事も金と恫喝で収めてきたのに、映画のDV親父は息子をバカにしています。それだと、息子の普段の不良行動に対する態度がどうなのか分からないし、息子の不祥事を金で揉み消す動機も分からない。ここは改悪ポイントだと思います。


そもそも、なぜこれを映画化しようと思ったのでしょうか。
まだ原作を全部読んでいないのではっきりとは言えませんが、学内裁判なんて絵面が派手じゃないので映像向きではありません。裁判自体が言葉の闘いなので映像には不向きだし。
うーん、私ははまらなかったなあ。
ネットでは高評価が多いのですが、原作未読が多かったです。私も原作を読まずに見たらもう少し高評価したのでしょうか。
乗りかかった舟なので後篇も見に行きますが、前篇ラストに流れた後篇の予告でも不安しかない。感動の結末に向かって舵を切っている感じがありありと見て取れます。それを見届けるために見に行く感じ。果たして結末は?
このエントリは私の見立てなので、違っていることもあると思います。もし「あそこはこういうことなんだよ」という部分がありましたら教えてください。あまりに世間と見方が違っているので不安なのです。
ああ、文句だと筆が乗って長文になってしまう。称賛だと上手く言葉が紡げない。もっと褒め上手になりたいな。



『ソロモンの偽証』予告編 - YouTube

『ソロモンの偽証 後篇・裁判』予告編 - YouTube

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 上巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証〔3〕(第2部) (新潮文庫)

ソロモンの偽証〔3〕(第2部) (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第II部 決意 下巻 (新潮文庫)