プロデューサーの腕の見せ所
伊坂幸太郎「バイバイブラックバード」を読みました。
相変わらず、伊坂さんの性善説な世界観は読んでいて気持ちがいい。
登場人物に悪人が登場しない。悪者であってもどこか憎めなかったり、ラストで善い人になったり。この人は基本が善なので、悪意が書けないんだな、と以前から思っていたら巻末のインタビューで「悪い人を書くのが苦手」と自ら白状していました。
今回の悪人は繭美ですが、これもデフォルメされ過ぎていて悪人には見えません。アメコミのキャラクターのよう。
ラストはもっと何かが起きるかと思っていましたが(過去の女性が集結して星野を助けるとか)、そうではなく、ベクトルの向きが変わった、というラストでした。
いい。
ベクトルの向きが「希望」に変わった感じ。「希望」は繭美の辞書にはあるのかな。
今回もいいお話でした。繰り返しの妙も含めて非常に映画向きの作品だと思うのですが、問題はキャスティング。
この本を読んだ人全員が「繭美=マツコ・デラックス」を思い浮かべながら読み進めていたと思います。なら、映像化する際はこの大多数のイメージを覆して尚且つ納得させるキャスティングが必要です。うーむ、難しい。他に思いつかない。
星野は、なぜか憎めない男ということで、名前も含めて星野源をイメージしながら読んでいました。もしくは妻夫木聡。でも、伊坂幸太郎だから中村義洋監督が撮ることを考えると、やっぱり濱田岳?
でももし映画が公開されたら「結局バスって何だよ」「組織って何なの」という意見がたくさん出そう。いや、この作品はその謎を探る物語じゃないから。
言葉を選ぶのは難しいですが、「善い人」が、そのいい人さゆえに周りを幸せにし、周りを困らせてしまう。でも不幸にはならない。「ピュア」とか「天然」というと聞こえはよくないですが、そういう純粋な「利他の心」によって、理不尽な力でさえもベクトルが変わっていく物語。
謎解きやどんでん返しではなく、この伊坂ワールドを楽しむ物語なのです。

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