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映画『ブレット・トレイン』感想

「荒唐無稽」の許容範囲


映画『ブレット・トレイン』を見てきました。
www.bullettrain-movie.jp
原作も読んでいます。


予告編を見ると原作とだいぶ違う感じ。まあ、ハリウッドでブラピ主演でデヴィッド・リーチ監督作品なら、同じにならないよね。それはそれ、これはこれで別ものとして面白い作品になっていればいいや。


感想は…難しい。映画として素晴らしくはないけど、嫌いじゃない。


ハリウッドが日本を撮るとき、忍者侍芸者という過剰日本になるか、アジアの別の国と混同しているか、アニメカワイイカルチャーニッポンになるかのどれかになりがち。本作は目的地が京都ということもあって過剰日本でもあり、乗客は日本人のつもりでアジア人(日本人が見ると差異は分かるもの)だったり、東京オリンピックのキャラクターみたいな着ぐるみが出てきたりと、全部の要素が盛り込まれていましたね。さらに夜のネオン街は『ブレードランナー』のイメージ(雨が降っていないのでそこまであからさまではないけど)もあり。
私、こういう「間違った日本描写」は嫌いではないんです。トンデモニッポン、見ていて楽しい。それがお話の本筋に関わる描写だと不愉快になるけど、単なる映像描写だと笑って見ていられる。


この作品の良し悪しを決めるポイントは、この荒唐無稽な設定をどこまで「あり」とするか、だと思います。許容範囲が広ければ楽しんで見ることができる。「そりゃないぜ」が多くなると真面目に見ていられない。


この「日本ぽいけど日本じゃないどこか」という映像により、今後の各種ツッコミどころを無効化してくれています。新幹線内であんなに激しいアクションして乗務員スルーかよ。日本のヤクザ、英語堪能すぎない?扉壊れているのにそのまま走るの?外から新幹線のガラスが素手で割れるの(指輪していたとしても)?夜に出発して2時間ちょいしか経っていないのに京都では朝なの?
その辺のリアリティラインを下げてくれる働きが、あのトンデモニッポンにはありました。


檸檬と蜜柑(レモンとタンジェリン)の二人はとてもよかったのですが、彼らの会話シーンがあまり上手くないように感じました。いちいちカット割らずに引きでしゃべっているところを撮っていればいいのに。タランティーノの方が上手い。
ヘビが何度も意味ありげに登場するのに実際は何にも物語上の効果をもたらさないなら、出す必要ないのでは。
王子(プリンス)の天才さと運の良さをもっと強調してほしかった。レディバグとの対比として。そしてそれを懲らしめる木村パパ、という決着がよかったなー。そこがカタルシスなのに。
ラスボス白い死神(ホワイトデス)は原作にはいないキャラクター。実際は峰岸の役なんですが、日本人をキャスティングできないため外国人に変える、そのための脚本、でしたな。


クライマックス以降のトンデモ展開は、ちょっと冷めた。いくら何でも素人が新幹線を運転出来ないだろ。正面衝突しないだろ。日本の鉄道安全技術なめんなよ。
木村は腹を撃たれたのに軽傷すぎるだろ。
クライマックス前の生存者で作戦会議をする場面で、きちんと作戦を立ててチームになり、最初はそれが上手くいって、しかし肝心なところでレディバグの不運があり、ラストではその不運が逆にラッキーに転じる、みたいな展開がよかったなー。


伊坂幸太郎作品の特徴として「ラストでこれまでの要素が収束する」がありまして、本作もそういう構造だったのですが、映画では原作と違い「白い死神が殺し屋達を集めていた」というのが「要素の収束」に該当していて、でもそれってそんなに重要でなくない?「なぜこんなに殺し屋があつまっているんだろう」は、物語上の謎ではなく、物語上の要請(そうしないとお話が成り立たない)でしかないので、「だからかー!」とはならないんだよなー。


展開として、
●「やっと駅下りられる→不運で下りられない」を繰り返すこと(そのたびに「次は○○駅」とかでシーン区切りをつけるなど)で、その間にひとつずつ話が進むこと(新たなキャラクターが出てきたり誰か死んだり)。
●上にも書きましたが、プリンスの天才性と運の良さを強調して、プリンス憎らしい!と観客に思わせること。
●レモンとタンジェリンを魅力的に描くこと(これはできていた!)。
などがあって、プリンスを木村パパがやっつけるというカタルシスに導くのがいいと思うんだよなー。プリンスを「誰よりも悪く、誰よりも賢く、誰よりも運がいい」というキャラにすることにより、ラスボスとしての価値が高まると思うんだよなー。
白い死神は「プリンスを倒して一安心と思ったのに!」という二段仕込みのラスボス扱いで、レディバグの不運の結果として死ぬ(ブリーフケースの爆発やプリンスの銃)でいいと思うんだよなー。


と批判ポイントばかり書きましたが、伊坂幸太郎ファンであることと本作の期待値をグッと下げて見たため、そんな悪い感想ではありません。あくまでB級作品。
ただ、原作を知らない人や伊坂幸太郎ファンでない人が見たらどうなのかなー。