やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

そろそろ岡村靖幸の何がすごいかをはっきりさせよう

ねえ、君は僕の事好きだって言うけどさ、どうして?


岡村靖幸は、好き嫌いがはっきり分かれるミュージシャンです。2011年の復活以降(=スーツ以降)はだいぶマイルドになりましたが、90年前後の頃はナルシスティックな振る舞いやセクシーな歌詞、何と歌っているのか分からない歌唱法などを毛嫌いする人も多くいました。
分かるぞ。でも、それを突破すると素晴らしい世界が待っているのだよ。


私はこのブログで何度も岡村ちゃんのことを取り上げてきたので今さらではありますが、もう一度岡村靖幸のすごさをきちんと伝えたいなと思い、書きます。
基本、ファン向けの内容になっておりますが、これを読んで非ベイベの方も聴いてくれたらなお嬉しいです。


職業作曲家としてのベース
(この「ベース」は楽器の方ではなく「基盤」の方です)
ステージであんなに踊る岡村ちゃんですが、デビューは「作曲家」です。渡辺美里・吉川晃司・鈴木雅之などに曲を提供する裏方でした。それがある日、レコーディングスタジオで踊っているところをプロデューサーに見初められ、デビューに至ります。
この話、まるで「友達の付き添いで来ただけなのに自分がスカウトされた」「姉が勝手に履歴書を出してオーディション合格しちゃった」みたいなアイドルのシンデレラストーリーですな。本当はデビューのために下積みの一環として楽曲提供もしていたのかなーとは思いますが、いい話。
で、岡村ちゃんは他人への楽曲提供という仕事をしていたので、「どうすれば多くの人に聴いてもらえるのか」ということを考えて曲を作っていたのだと思います。それが「ファンクでありながらポップス」という岡村靖幸のオリジナリティにつながっていったと私は考えます。


ファンクを日本語で歌うということ
岡村靖幸の音楽は、ファンクです。「和製プリンス」なんて言われていたのもファンクミュージックをやっていたからです。
日本人はディスコ音楽は好きなのに(AKB48の「恋するフォーチュンクッキー」だってディスコだ)、日本にはファンクという音楽が根付きません。なぜか。
日本語が乗らないからです。
ファンクのリズムは跳ねているので、日本語のべったりのっぺりとした言葉は相性が悪いです。さらにファンクは1コードや2コードを延々とプレイすることにより生まれる高揚感が魅力で、「リズムで聴く音楽」です。それに対し日本の唱歌・歌謡曲は「メロディで聴く音楽」なので、ここでも相性が悪い。コード進行がずっと変わらない曲なんて聴いていられない人が多いのでしょう。
なので、以前の日本のファンクミュージックは意味よりも音のノリを重視した曲、おバカなパーティーソングなどが多かったのです。


そこで岡村靖幸はどうしたか。
「ファンクのリズムのまま日本語を乗せた」のです。ロックのリズムに日本語を乗せた開祖は桑田佳祐ですが、ファンクは岡村靖幸なのです。
具体的には韻を踏むこと、日本語の発語を崩してでもリズムに沿うこと、曲に合うためなら新しい日本語も作っちゃうことなどです。
いくつか実例を。

Peach Time』
Peach Time I Love You
今晩ビビッとナンパをしようぜDown town boy
実際はまだ困難すぎてバーボン握ってダウン×2さ

www.youtube.com
ここは「ダウンタウンボーイ」と「ダウンダウンさ」が分かりやすく韻を踏んでいますが、もっと細かく見ていくと「ピーチタイムラビャ」と「実際はまだ」でも踏んでいます。しかもここは「I Love You」を「まだ」と踏むために「ラビャ」という発音で歌っています。「今晩」と「困難」でも踏んでいるので、つまりこの部分はほとんど踏みまくりなのです。
そしてこの後「食事はニューオーリンズ」という歌詞が出てくるのですが、なぜニューオーリンズかというと、2番の同じ部分の歌詞が「重要です」なので、ここで韻を踏むために「ニューオーリンズ」なのです。

『家庭教師』
たぶん23歳 だのにこんな昼間 遊んでばかりで
赤羽サンシャイン あの娘こんなビルの部屋借りちゃってんだぜ そんで…

エリ子がジャンジャンお金浪費するとあの夢がばれる
かたじけないじゃん 親が村会議士で偉くて大金持ちだとしても

毎晩門限を破ってる 大学校でも嘆いてる
最終家庭教師の僕 来週の参観日に間に合う様に宿題しなBaby ほら

www.youtube.com
まずは「たぶん23歳」と「赤羽サンシャイン」。23歳だからこのマンション名になったのか、「サンシャイン」の響きから23歳になったのか。どちらが鶏でどちらが卵なのかは分かりません。ついでに「なのに」ではなく「だのに」なのは、「だ」の方がアタックの強い音だから選んだのだと思っています。
「ジャンジャン」と「かたじけないじゃん」は分かりやすいですね。もちろん上の「たぶん23歳」「赤羽サンシャイン」とも韻の関係になっています。
「毎晩」と「大学校」はどちらも「あいあ」で韻を踏んでいます。さらにその次の「最終」と「来週」も韻を踏んでいますね。しつこく細かくいうと、「門限を」と「(大学)校でも」は「おえお」で踏んでいます!
そしてこの曲は、「村会議士」「大学校」など馴染みのない言葉も登場します。「議員」や「大学」ではダメなのです。曲のリズムとメロディがこの言葉を要求しているのです。「参観日」だって、大学なんだから参観日なんてないはずです。それでも「サンカンビ」という言葉のリズムのためにこの言葉が選ばれているのです。
『聖書』の「Crazy×12-3=me」も完全な造語ですな。

『どぉなっちゃってんだよ』
Hey everybody 今年の夏は誇らしいと誰からも言われてみたい気がする
ねぇ 職場でとなりの席がバカなセクハラ上司で君を撫でたら殴るの?

読んだ本は全部マンガばかりで 次の日全部忘れちゃう
だって重要なことなら誰かれ問わずに ファッション×2

Hey everybody 好みのギャルもビデオばかり見てたなら出会う機会も失せるぜ
好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる そうだろ?

ここでは韻ではなく「アタックの言葉」について。曲を聴くと、リズムを強調している歌い方の部分があります。「ヘイエブリディ」「ねぇ職でとなりの席が」「読んだ本は部マンガばかりで」「次の日部忘れちゃう」「だって要なことなら」「ビデオかり見てたなら」と、リズムを強調している部分は全部濁音です。濁音は、音の響きとして強い。もちろん狙ってこういう歌詞の配置にしているのです。
そして「好きだと言えないくせして」の部分が「言えない」と濁音ではないのは、それにより「言えない」という弱弱しさも際立たせるというスゴ技なのです。
さらに後半の

俺達きっとなんだかんだ言って宿題なんぞ投げ出したい
そんで流行の雑誌で生き方定めて ファッション×2
俺なんかもっと頑張ればきっと女なんかジャンジャンもてまくり
やっぱマニュアル通りに見つめてそんでもって マンション×2

ここなんか、促音(小さい「っ」)と「ん」を上手く使ってリズムを強化しています。上手いなー。


その他、『いじわる』『聖書』ではファンクの1コードループにより、ねっとりとしたエロさを表現しています。歌詞のエロさは言わずもがな!


このように、岡村靖幸はファンクのリズムを強化するために日本語を巧みに使い、きちんと意味も通す歌詞にしているのです。すごーい。そして上記で書いたように職業作曲家としてのメロディのポップさが加わって、「ファンクなのにポップス」が成立しているのです。


名コピーライター
日本語のままファンクをやるという岡村靖幸ですが、その歌詞はリズムに乗せるためだけではなく、歌詞そのものも素晴らしいのです。
「あの娘ぼくがロングシュート決めたらどんな顔するだろう」は、これまであらゆるジャンルでパロディにされてきました。AVにもなっていたなあ。90年代に入ってビーイング系がこういう長いタイトルの作品出してきましたが、こっちは1990年発売ですからね。こっちが元祖。
「(E)na」で「かっこいいな」と読ませるアイデアは、ネット文化以降ではこういうスラングもありますが、この時代ではまだない。岡村ちゃんはいつでも早いのだ。


「この僕は君の最新型のベッド」
「今夜は君のヒップが何でできているかパパやママやみんなに教えてあげるんだ」
「同級生だし バスケット部だし 実際青春してるし 背が179!!」
「長靴の中に水たまりがありゃまだ10代」
「君のパンツの中で泳がせてよ」
「週刊誌が俺について書いてあるのは全部ウソだぜ」
「でも本当に大事なキスなら僕しか販売してない」
「撫でちゃいたいかい?僕の高層ビルディング」
「参考書は僕のヒップ」
「寂しくて悲しくてつらいことばかりならば あきらめてかまわない 大事なことはそんなんじゃない」
「性生活は満足そうだが」
「ぼくがすごいのはSEXだけじゃないんだぜ」
「僕はステップアップするため倫社と現国学びたい」
「本当のDance Chance Romanceは自分しだいだぜ」
キリがないのでやめよう。どーですか、この歌詞。すごいでしょ!


ダメな男、岡村ちゃん
ここまで音楽面から岡村靖幸のすごさを解説してきましたが、ここでは「ダメな男、岡村ちゃん」を書きます。私生活は知りません。あくまで音楽から伝わることのみで。
岡村ちゃんは、何もできない男なのです。何もしない男なのです。「僕はベッドの中じゃすごいって日本じゃ有名なんだよ」「僕はあいつには絶対できないキスのやり方を知っているからね」なんて言いながら、実際は下記の通りです。


「誰もできぬキスがしたいの」
「あなたが好きだと実感させて 抱きしめたいな」
「あなたのドレスのジッパー外して 撫でてみたいな」
「いますぐ君を抱きしめたい」「くちづけしたい」「騒いじゃおう」「やっちまおう」
「猛獣のようなハートであのとき 激しく抱きしめてたなら」
ダスティン・ホフマンのようにさらいたい」
「僕の方がいいじゃない」
「愛しちゃったんだろ?言うチャンス今だぜ」(言ってない)
「ナンパできるようになりたきゃ どうすりゃいい?」
「好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる」
したい、してみたい、してたら…。何もしてない、何もできない。それが岡村ちゃん


Peach X'mas』は「本気出せばこんなもんだぜ どーだまいったかgirl」なんて言いながら、実際は何も言えていません。そして同じくダメだった男友達と来年の作戦を考えるのです。
『ラブメッセージ』は50歳を過ぎても14歳の頃を思い出して「零れるようなキスしたい」「君がいた青春は あの頃のまま輝ってる」なんて思い出している。いつの話だよ!まだそんなこと思い出してるのかよ!
『愛はおしゃれじゃない』なんて全面妄想ですからね。


ちゃんと行動しているのは『Dog Days』の「歴史に残る勇気を振り絞ってぼくは言ったよ 君さえよければ この夏一番の愛を築こう」くらいですよ。ここでも「歴史に残る勇気」なのに「君さえよければ」という控えめな表現。で、ここまで頑張ったのに「車のない男には興味がないわ あきらめて出直して勉強でもしてて」とあっけなくフラれる始末。かわいそう。


でも、こういうところが好きなの。ピュアで、気軽に「君を愛してる」なんて言わない。だってそんなこと気軽に言えることじゃなもの。そういえば岡村ちゃんの歌詞に「愛してる」ってほとんど出てきませんね。「好き」で止まってる。50歳を過ぎてもまだ青春の中にいるのか。


だいぶ長くなったのでこの辺でおしまいにします。岡村靖幸がすごいのは、ファンクというカッコいい音楽をカッコいいまま日本の音楽にするために歌詞の内容やリズムにこだわり、さらに歌詞の内容についても他とは比較のできないオリジナリティがあるところだ。
そのうえ見た目がカッコいいとかデンスがすごいとかもあるけど、そこまでキリがないのでここまで。もう5,000字超えたよ!


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