やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『search』 感想

今、映画館で見るべき映画。なぜなら


映画『search』を見てきました。公式サイト↓
www.search-movie.jp
この作品は「全編PC画面のみで構成されている」というのが売りですが、これだけ聞くと「それで映画として面白くなるの?」と思いますよね。私もそう思いました。無理やりで窮屈な映画なんじゃないかと。
しかし、それは杞憂です。物語としてきちんと面白い。ミステリーとして秀逸。きちんと「面白い映画」になっています。
もちろんやや強引な部分もありますが、それでもこの映画が「PC8割、普通の画面2割」だったらインパクトはないわけで、徹底してPC画面内で物語を作ったことに意味はあるのです。


あと、ポスターや予告編にある「娘を検索する--初めて知る闇」「手がかりは24億8千万人のSNSの中にある」というのは外れです。「ネットの闇」みたいな話ではないです。だって今や「ネット=現実」ですから。
とにかく、「よくできたミステリー映画」なのです。そして、ミステリーということはネタバレできないので、とにかく見に行ってくれとしか言えない。上映館がとても少ないので、みんなで見に行って上映館を増やすのだ!


では、ここからネタバレ含む内容になりますので、まだ見ていない人は見てから続きを読んでください。






オープニングは、パソコンの起動画面から。そしてここから家族の映像を次々に見せることにより、この家族がどんな家庭なのか、何があって現在に至っているのかを語ります。それを、PC画面のみで。
美人の母親(主人公にとっては妻)がいたのですが、病に倒れ、帰らぬ人に。ここ、娘がスケジュール帳に「ママが帰ってくる!」と書いていたのが、退院が延び、スケジュールは後ろ倒しに。そのたび画面内でドラッグしてカレンダーの後ろの日付に直して、ついにはデリート(消去)するという新しい表現方法。セリフも表情も伝えず、すべてを伝える。上手い!


ネット文化が広まるにつれ、「文字だけでは感情が伝わらない」なんてよく言われますが、この映画ではSNSのチャット内で主人公の父親が書いては消し、書いては消すことで心の中を垣間見ることができます。PC画面だけで逡巡は表現できるのだ!


この作品がミステリーとして素晴らしいのは、伏線がしっかりしていること、ミスリードの巧みさ、ヒントはすべて画面内に表示され物語内で語られていることです。何と正々堂々とした作りだ。
そして、本筋は家族の話。それは被害者家族はもちろん、加害者の家族の話でもあります。子供のためなら何でもするのが親であるなら、それはどの立場の親であっても同じこと。
見せ方は最新ですが、お話は王道そのもの。これがエンタメの温故知新であり正常なアップデート。


娘の車が見つかり、その車内からは見覚えのあるエンブレムが。これ、弟のものじゃないか?調べると娘と弟の怪しいSNSでの会話。お前!俺の娘に何をしたー!
弟を呼びつけて詰問。ここでも「証拠映像を押さえる」という名目で室内に複数の隠しカメラを設置。この映画のルールは守らないとならないので。
しかし、弟は娘とふしだらな関係だったわけではなく、親に隠れてハッパ(大麻かな?)をやっていただけでした。大麻だけ、と言っていいのか分かりませんが、アメリカだったら飲酒くらいの悪さなのかな。


複雑な思いのまま、一応安堵する父親のもとに最悪の知らせが。娘を殺したという犯人が自白し、自殺したとのこと。そうか、さっきの弟の一件はこのためのミスリードだったのね。
しかし、ニュース(実際の映像は使えないので第三者目線の話はニュースやSNSなどの投稿映像によって構成されています)では「マーゴット(娘)の死亡が確定しました」という表現。「確定」って何だよ(違う単語だったかも)。死体は出てないのか。とちょっと引っかかりましたが、話は進む。


娘のお別れ会(葬儀)のオンデマンド配信サービスに登録をしたら、あれ、このトップ画面の女性に見覚えがあるぞ。そうだ、娘のユーキャスト配信によく参加していたあの女じゃん。
調べるとこの女性はモデルで、配信に参加していたのは別人でした。じゃあ、あれは誰?
さらに、警察に電話すると担当刑事はこの事件に任命されたのではなく志願していたことが判明。なぜ志願したのか、なぜ任命されたとウソをついたのか。
そして、この刑事の過去写真に見覚えのある男が。こいつ、自白して自殺した犯人じゃん!何でこいつと一緒にいるの?


ということで、犯人は刑事でした。正確に言うと、その息子がマーゴットに惚れて湖でトラブルになり、それを隠蔽しようとしたのが真相です。
そのために事件の担当を志願し、死体が見つからないようにボランティアが捜索する前に娘が滑落した箇所は「捜索済み」とし、事件を終わらせるためにヤク中を使って犯人に仕立て上げたのです。


上手いなー。ヤク中の自白は「死体も出てないのにこれで確定なんて」と思いましたが、その前の弟の疑惑があったので、このミスリードに対する解答だと思い、納得しそうでした。
あの配信でマーゴットと仲良く会話していたのが息子。だから彼女がポケモン好きなことも知っていたし彼女の身の上も知っていたから話も合わせられる。そして、親の手術にお金が必要というウソで彼女の同情を引いていたのですが、実際に母を亡くしているマーゴットは本気なので、父親に内緒で好きなピアノを辞め、まだ続けているように装いつつ月謝は受け取り、それを貯めて彼女に渡そうとしていました。そこで実際に会い、事実を知り、事件は起きてしまいます。
この息子は以前募金と偽って近所の人からお金を集めたことがあります。そこで母親がしたことは謝ってお金を返すことではなく、募金は実際にあったことなんだと近所の人たちに説明をして事態の収拾を図ったのです。警察官の親が言うんだから近所の人は信じますよね。その成功体験が今回の事件を起こしてしまうのです。
ここで「ウソをつく息子」と「息子を守るためなら何でもする母親」が既に序盤で語られていたことを私たちは思い出すのです。
上手いなー。


上記のお金の問題も「娘が知らない間にピアノのレッスンを辞めていた」「そのお金が引き出されていた」という事件性を匂わすフリになり、実際は娘が友達のためにお金を工面していたという事実(娘は悪い子ではなかった!)とこの事件の直接のきっかけになっているのです。全部がリンクしている!


結局娘はどうなったのか。死体は見つからないが、もし谷底で生きていたとしても水なしで5日間は生きられない。
いや、2日だ。事件の翌日から嵐が来て大雨が降った。だから生きていたなら水は飲めたはずだ。
現場から引き揚げられた娘は、生きていました。ここ、ニュースの生中継という形で映るのですが、ここまできたらそりゃ生きているはずなので、「生死は不明です」で引っ張らず、腕が少し動くとかこの場で生きていることを確定させた方がいいのでは、と思いました。
まあ、そんなのは些細なこと。ここでも「嵐が来ていた」という事実は確かに物語上で語られていて、そのときは「だから捜索も難しい」という悲劇の推進力だったのが、ここでは「だから生きているはず」という希望の根拠になります。上手い!上手いぞ!


「すべてをPC画面内で」という縛りは、「ニュースでそんな生々しいところまで踏み込む(映す)かなー」とか「取り調べの映像は録画しているとしても、それを外部に公表するのかな(海外はするの?)」とかの不自然さは少し感じましたが、ほぼ違和感なし。それどころかこの縛りによる新たな表現方法が生み出されているので、トータルでは完全にプラスでした。


上記のように物語はすべてに意味があり、秘密や伏線はすべて画面上・物語上に散りばめられていたのにそれと気づかせない筋運びや演出にも脱帽。しつこいけど、上手い。
ポケモンに関するやり取りにも意味があるのですが、私はポケモン全然知らないので気づきませんでした。
www.club-typhoon.com
参考ブログ。なるほどねー。そのキャラにも意味があるのねー。


今回のエントリの小見出しにも書いた通り、この作品は「今、映画館で見た方がいい」です。
なぜなら、PC画面なので情報量が多い。家のテレビやタブレットなど小さい画面で見たら見落としてしまうキーワードや小ネタが多いからです。
もうひとつの理由は、この映画で登場しているインターネットやSNSは、「今」のネット環境、SNSの種類、使う私たちの接し方でしかないから。10年後はまた違うサービスが世界を席巻しているかもしれませんし、キーボードをポチポチ叩くなんてのも10年後には古くなっているかもしれません。
そういう意味で、違和感を抱かないためにも「今、映画館で」見てほしいです。


この作品は有名な俳優は出てこないし監督もまだ無名(でもものすごく優秀な感じがする。数年後が楽しみ!)なので、公開規模も宣伝規模も小さいです。
でも、絶対に面白いので『カメラを止めるな!』のようにみんなで盛り上げてもっと公開規模を拡大させたいです。さあ、見に行きましょう!


この「サーチ」は映画と何の関係もないです↓

サーチ! 富と幸福を高める自己探索メソッド

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