やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『SING/シング: ネクストステージ』感想

アニメと歌の力で上書き


映画『SING/シング: ネクストステージ』を見てきました。
www.universalpictures.jp
前作は「物語としてはいろいろ思うところはあるけど、歌の力でねじ伏せた」という感想でした。あと、映像表現は素晴らしい!
ese.hatenablog.com
さて、本作はどうかしら。
f:id:ese19731107:20220326134516j:plain
うーむ。「アニメだから何となく見ちゃうし名曲が多いから何となく興奮するけど、お話としてはめちゃめちゃじゃない?」でした。


冒頭、スカウトに酷評され落ち込むムーン。この人、根っからの楽天家でヤマ師だからこんなことくらいで落ち込まないんじゃないかなあ?その後すぐに復活してレッドショア(物語中のラスベガス的な地区)へ行こうという流れ。躁鬱かよ。クライマックス前のボディーガードが部屋に訪れるのを怖がるムーンと、その直後外に飛び降りて逃走するムーン。同一人物?躁鬱かよ。
申し込んでないので忍び込むというのはいいのですが、オーディションの出し物がちゃんとできていないというのはいいのか?そして口からでまかせで「伝説の歌手クレイ・キャロウェイを出演させる」と言う。ウソじゃん。詐欺じゃん。
一応の保険として「子供の頃クレイのコンサートで『ボクのステージに出てください』『ボウヤが大きくなったらな』のやり取りがあった」など、ギリギリでいいので根拠がないと、完全に詐欺師になっちゃうよ。(このエピソードでもアウトだけど)
ムーンはハッタリ屋だけど前向きで出演者達のケアや鼓舞もして演出家としては一流、みたいな部分があればいいのに。ムーンは結局どういう奴なのかよく分かりません。誇大妄想家の詐欺師でいいの?


娘に甘いプロデューサーに振り回されるというのはエンタメ制作あるあるでよいですが、娘の性格がよく分からん。ワガママなのか父親に反発する自立心があるのか。主役を降ろされて脇役に回る場面で、ムーンはきちんと説得をして彼女を納得させなければならない。その辺がぼんやりしているので、彼女の心変わり(=成長)が見えにくくなっているのです。


ジョニーはダンスに苦戦。そこでストリートダンサーに師事を仰ぎ、見事ダンスを習得。
どうやって?あの先生とこの先生は何が違うの?「リズムに身を任せて」なんて言っていたけど、それだけでできるようになるかな?この指導法だから上手くいかなかった、ジョニーにはこういう特性があるからこの指導法だから上手くいった、という「先生の違いの差」が描かれないので、何がどう違って上手くいかなかった・上手くいったのかが分かりません。


そして本作の肝はクレイ・キャロウェイをどうやって出演させるのか。肝心のこの部分は、結局何も描かれない!ただアッシュが寄り添っていたら何となく情にほだされただけ。
そりゃないぜ。15年引きこもっていた大物を表舞台に出すんだから、それ相応の心変わりの理屈が必要です。


本作は、登場人物の心の動きがまったく描かれないので、カタルシスがない。どうやってその苦悩や苦境を脱したのか。その人の頑なな心をどうやって変えたのか。
描いてよ。


裏方さんたちと最初は協力関係が築けなかったわけで、そこもドラマになるのに描かない。「このままでは間に合わない→(何かがあって)→ムーンのために頑張ろう→間に合った→ありがとう(感謝)」とかがあればいいけど、「ギクシャク→ミス・クローリーのスパルタ強権」だけ。裏方さんへの敬意がほしいなー。


ここからは私の勝手な妄想込みの感想ですが、前作から続投のキャラは、本作では何も成長しません。ジョニーのダンスが上手くなるくらい。
地方の劇場で成功して、エンタメの本場に出てきた。そしたら本場のエンタメは自分の実力では到底太刀打ちできないレベルだった。→努力。
もしくは地方の劇場で成功したので自信が慢心になり、努力を怠るようになった。→気づきを得て努力。
など、何かしら成長を織り込んで描いてほしかったです。


また、クレイ・キャロウェイが15年ぶりに人前に出ていきなり歌えるものかしら?
歌えるとしたら、リハーサルで素晴らしい歌声を披露→他のキャラに刺激を与えて努力への引き金になるとか。
もしくは歌えないのであれば、歌えるようになるまで必死に努力する姿を他のキャラが見て努力への引き金になるとか。
クレイ・キャロウェイ自体にも「成長」は描けたと思うんだけどなー。


あと、劇中劇の脚本はムーンとグンターが書いていて、結末部分はグンターに丸投げしていたので、そこで何か意外なオチが来ると思っていたのに何もなし。私が勝手に期待していただけですが、残念。


とはいえ、ボノと稲葉浩志を引っ張り出しただけでこの作品の勝利は約束されています。私が見たのは吹き替えで、稲場さんのしゃべり演技はひどいものでしたが、いざ歌い出せばあの声だもん、素晴らしい。


●ムーン(内村光良
前作以上にムーンでしたな。上手かった。
ロジータ坂本真綾
高所恐怖症だけどムーンを助けるために飛ぶ、という場面はよかった。あと、子供を兵器として使うのもよかった。
●アッシュ(長澤まさみ
劇中だと長澤まさみって感じがしなかったです。役の声になっていた。最初のシーンでギター1本+MPCというライブのやり方が「今どきの弾き語り」になっていてとてもよかったです。
●ジョニー(大橋卓弥
特に感想はないっつーことは自然でいい演技だったんだな。
●ミーナ(MISIA
前作張りに歌唱力を見せつけてほしかった。ナーメテーター案件にしてほしかった。
●グンター(斉藤司
斉藤さん、今回もとてもよかった!演技もいいし、グンターと斉藤さんのポジティブなキャラが合致していてとてもよかった。
●アルフォンゾ(ジェシー
MISIAとデュエットでファルセットを歌うのは、さすがに荷が重かったね。この役、本国版はファレル・ウィリアムスなんだよね。こっちで聴いてみたい!
●ポーシャ(アイナ・ジ・エンド)
最初のしゃべりでは「フワちゃん?」と思ってしまいました。歌い出したら上手いのでアイナだ!と思い出した。
●クラウス(山寺宏一
前作のマイク(ネズミ)はまったく出てきませんが、山ちゃんは別人として本作にも登場。さすが山ちゃん、何でもできる。