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好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

映画『新聞記者』 感想

志と映画の出来は別物


映画『新聞記者』を見てきました。公式サイト↓
shimbunkisha.jp
日本で政治を直接扱った作品が公開されること、それも政権批判側の立場の内容であること、参議院選挙のタイミングで公開されることなどからこの作品は話題になり、公開劇場数は多くないながらも興行収入ベスト10に入るヒットになっています。


というわけで見てきましたが、私の感想は


です。
絶賛している人は、上記のような「この内容がこのタイミングで公開されること」を絶賛しているのであって、映画そのものを褒めているわけではないのでは?もしくは政権批判してくれたうれしさから映画の出来には目が及んでいないのでは?


物語の筋は悪くないと思います。官僚がいろいろな出来事から自分の仕事に疑問を持つこと、そこから簡単に国の反逆者になるわけでなく自分の生活(妻と生まれたばかりの子供のことも)を考えて引き裂かれる理想と現実。新聞のスクープが政権に壊滅的なダメージを与えないところ、現実はなかなかドラマのように変わらないところ(この作品もフィクションですが)。


しかし、諸々の詰めが甘い。


そんな説明セリフ言うかね、そんなセリフっぽいセリフ言うかね。登場人物が生きていない。書き割りのような人物造形。
松坂桃李田中哲司などの達者な役者によって何とか成立していますが、本田翼のような技術の低い人がいるとアラが見えちゃう。
劇伴やBGMが、再現VTRのような分かりやすいタイミングと音。ベタすぎてダサいよ。
編集がダラダラしていて締まりがない。自殺した後、霊安室で遺体に向かって泣くシーンなんていらないだろ。自殺→ニュース→告別式でいい。新聞が輪転機から家庭や店に届く場面も、もっと細かくカット割ってスピーディーに見せてくれ!
編集がもっと上手くできていたら映画そのものにもっと緊張感やスピード感が生まれたのに。あ、でもクライマックスの記事を書くときの編集長とのやり取りはよかった。自分が書きたいことと読者に伝えることのバランスを編集長が上手に橋渡ししてくれていました。


演出全体だと、新聞社の場面でドキュメンタリー感を出そうとわざと手ぶれさせる撮り方、単に見にくい(酔う)だけ。
職場から駅への道を歩いている場面を隠し撮りっぽく撮るのは、内調・公安がマークしているからですか?その辺の「組織が動いている」描写がなかったので、どういう意図なのか分かりませんでした。
新聞社も暗いけど、内調の部屋が暗い!あんな暗がりで大勢が仕事しているわけないでしょ。リアリティゼロでもったいない。何で「パソコンといえば→暗がりでブルーライトに照らされる顔→エンターキーダダーン!」みたいなイメージを更新しないのか。


お話全体は政権批判ですが、内調の言い分も分かります。国の安定のためには小言までいちいち聞いていられない。そのために排除するのはトータルではお国のためだ。
それだったら何をしてもいいのかってのはまた問題ですけど、気持ちは分かる。そして、そういう組織の中にいるとそれが正しいことだと思ってしまうのも分かる。人は自分のやることに正当性を見いだそうとする生き物ですから。


ラストはもう少し結論めいたものを見せてほしかったですが、「考えるのはあなただ」というメッセージだと受け止めました。


この作品はこのタイミングで公開することに意味があるので、いろいろ突貫工事だったのでしょう。だから脚本も演出も編集も詰めが甘い。それでも、意味は十分果たしたと思います。だからこそいろいろ惜しいのがもったいないなーと余計思うのです。これはプロパガンダではなく映画なのだから。


いろいろ文句を書いてきましたが、「面白かった」「つまらなかった」の2択でいえば、面白かったです。そしてやはりこのタイミングというのも大事。皆さん、見に行ってください。
※上映館が減ったり上映時間が減ったりすることを「政府の圧力だ」なんて言う人がいましたが、劇場は「人気があれば続ける、なければ減らすもしくは打ち切る」というシンプルな判断基準なので、そんな心配はしなくていいです。ただ、公開から時間が経てば減らされるのは仕方ない。だからこそ、早めに行ってください。


あと、「よくこの映画が公開できたな」みたいな声をよく目にするのですが、そんなあからさまな「圧力」なんてあるのかな?あからさまな圧力でなく「忖度」なのかな。
でも、それって見る私たちが「この人は政治的な発言をした。大丈夫かな」という目で見るからじゃない?私たちが余計な色を付けているんじゃない?プライベートの発言内容と仕事の出来は別に見てあげないと、プライベートの発言により仕事に影響が及ぶという「無意味な悪循環」は続きます。ヘイト発言はもちろんNGですが、どの政党を支持しようと自由じゃん。
政治的発言を恐れているのは、忖度しているのは、公と私を混同しているのは、私たちなんじゃない?


監督のインタビュー。立場がフラットでとてもいい。プロデューサーの方が「反権力!打倒安倍!」な感じなのかな?
「賛否があることを理解して引き受けた」映画『新聞記者』藤井道人監督の覚悟【インタビュー】 | 映画ログプラス


新聞記者 (角川新書)

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