やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

生活保護の偏見と実際

偏見は無知から


今年から、生活保護の部署に異動になりました。
内示が出たときは周りから「大変だよー」「病む人もいるよー」と散々脅されましたが、今のところ病む気配はなく楽しく仕事をしております。


で、生活保護っていうと世間の目が結構厳しいのよねー。そこで今回は、そういう生活保護についての偏見をいくつか解きほぐしていきます。


生活保護って、働かない怠け者でしょ?
違います。
私が担当している人たちの中では、そういう人はひとりもいません。そういう人もゼロではないでしょうが、限りなく少ないです。
保護になる人は、ほとんどが「働けない人」です。働けないのは、高齢・病気など。75歳の人に「働かざる者食うべからず」と言えますか?抗がん治療している人に言えますか?「貯金していない自業自得」という人は、高額医療費を払う人生を歩んでから言え。
そして、自業自得といって路上に放り出して、どうなりますか。餓死させるつもり?万引や強盗で暮らすべき?セーフティーネットは、どんな人にも平等に公平に開かれているべきです。


保護を受けている人は働かずに暮らせて楽でいいね
違います。
生活保護で受けられる保護費は、とても少ないです。保護費の額は地域によって違います(級地という)。私の地域は全国でいちばん少ない地域で、単身世帯では65,000円ほど(条件によって上下します)。これで食費水道光熱費ケータイ代その他生活費すべてをまかなうのは、正直大変だと思います。
楽に暮らせるなんてほどのお金は出ていません。


でも、タバコやお酒を飲んでいる人いるよ
別にいいじゃん。
保護費は、使い道に紐付けや制限はしていません。何に使ってもいいのです。タバコやお酒でもいいし、パチンコに行ってもいい(パチンコは後述「収入認定」に関わるのでちょっとややこしいけど)。個人の生活に行政は口出ししません。ただし、借金はダメ。
とはいえ、上記のようにぜいたくできるほどのお金があるわけではないので、吸い放題飲み放題ってわけにはいきません。そんな生活をしていたら自分の生活が苦しくなってしまうので、そこは自分でコントロールして生活をしてもらいます。
同じ理由で、貯金もOKです。多くない保護費から貯金をして、テレビを買ってもいいし原付を買ってもいい(任意保険にも入らなければならないが)。その人の生活は、その人自身が決めるのです。


働かなくてもお金もらえるなら働かないよね
違います。
働くとその分を「収入認定」して、その分を差し引きして保護費を支給するのですが、5万円働いたらその分5万円マイナスになるわけではありません。「基礎控除」というものがあり、働いて稼いだお金のうちいくらかは控除できるのです。なので、働いてお金を稼ぐと、自分に入ってくるお金も増えます。働いた方がお得なのです。
お金持ちの収入100万円が1万円増えるのと、自由に使えるお金がほぼない人が1万円もらえるのとでは、意味合いが全く違います。十分働く動機付けになると思います。
上記パチンコは、勝てば収入申告しなくちゃならないし、就労収入ではないので控除はなく全額返還。そして負けたら生活費がなくなる。何もいいことありません。普通に働いた方がよいのです。
そして、仕事をするというのは、お金を稼ぐだけではなく、社会とのつながりや「必要とされている充足感」もあるので、そういった意味でも働くことは大事だと思っています。
ちなみに、働いたのにその収入を隠すと、生活保護法の63条や78条が適用され、返還や徴収が行われます。正直に申告していれば控除されて手取りは増えるのに、隠すと全部返さなきゃならない。どの世界も、正直がいちばんです。


生活保護は税金の無駄遣い
違います。
生活保護を受けている人は、基本足がありません(自動車を持つことは原則認められず、保有にはいくつかのハードルがあります)。徒歩や自転車しかないため、近所(=市内)のスーパーなどで買い物をします。また、たくさんのお金を受け取っているわけではないので、もらったお金はほぼ全額使っています。
そう考えると、「お金の分配」という政治の一番大事な仕事としてはとても効果的・効率的なお金の使い方になっているのです。市内にお金が回るということは、市内の経済が潤うということです。経済とはお金を稼ぐことではないしお金を貯めることでもありません。「お金を回すこと」ですからね。
つまり、市の経済政策としてはとても有効なものだといえます。市外の民間業者に中抜きされる国の政策の方がずっと税金の無駄遣いでしょ?


あと、もし生活保護という制度がなかったらどうなると思いますか?働けない人はお金がないんだから、強盗や万引で暮らすのでしょうか。社会不安が大きくなりますね。刑務所に入れたら、もっとお金がかかります。
結局、お金の面から見ても生活保護という制度がいちばん効果的で効率的なのです。


私は、自動車の保有についてはもう少し条件を緩和してほしいなーと思っています。都会と違い、私の地元のような田舎では、自動車なしでの生活はあり得ません。日々の生活もそうだし、仕事に行くには車がないとどうにもなりません。仕事を探しても車がないため採用されない、もしくは応募すらできないということがたくさんあります。
確かに車を持つと維持費がかかるので生活保護を受けながら自動車保有というのは大変ですが、「原則ダメよ」はやめてくれ。都会の常識で田舎を縛るな。


税金を使わずに家族が面倒を見ろよ
違います。
生活保護は、世帯で判断することが原則です。家族であっても別に住んでいたらそこはお金の計算には含みません。
「家族が支える」というのは理想ですが、現実はそういうわけにはいきません。家族の仲が悪い家庭、虐待のあった家庭、家族も生活がギリギリの家庭。様々な家庭があります。
やっと親の虐待から抜け出せた子供。20年も音信不通だったのに、今になって市役所から「あなたの親が生活保護を申請しています。あなたは子供なので助けなさい」なんていう通知が届くのは間違っている。
数年前、お笑い芸人の家族が生活保護を受けていたことが判明し世間は猛バッシングをしましたが、それは間違っています。家族といえど、別個人です。生活保護という制度は世帯で助けることを前提としています。
もちろん、助けてもらえる家族は助け合いましょう。できる人はする、できない人は制度がある。


俺が払っている税金をこいつからが使うのは許せない
違います。
そもそも、税金というのは「払った対価として受けられるサービス」ではありません。よっぽどの富裕層以外、払っている税金より受けている恩恵の方が大きいです。
そして何より、なぜ生活保護だけがこんな言われ方をされなきゃならんのだ。子供ができたから受けられる制度、失業したから受けられる制度、病院を受診したときに支払うお金、どれも同じように制度として金銭的な恩恵を受けることのできる制度です。それと並列して生活保護という制度があるのです。


とりあえず思いついた偏見と解説はこんなところです。もしもっと疑問点があったら教えてください。分かる範囲で回答します。


生活保護は、人生のある時点で困ったときに使ってもらう制度です。働ける人は一時的な待避地帯として使ってもらい、トランポリンのように羽ばたいてもらいたいし、そうでない人は安心して人生を過ごしてもらいたいです。
願わくば、おかしな偏見が少しでも減りますように。


↓これ、めちゃめちゃリアルです。読みながら「うちじゃん!私じゃん!」と何度も叫びながら読みました。