「SOSの猿」 伊坂幸太郎 感想
映画化お願いします
久しぶりに伊坂幸太郎。
文芸書から文庫になるにあたっていくつか改編されているそうですが、私は文芸書版は読んでいないので何が違っているかは知りません。
伊坂さんの作品はセリフや例え話に独特の「味」があり、それが映像になると「セリフっぽいセリフ」に聞こえることもあるのですが、私のような伊坂ファンからするとそれがまた嬉しくもあるのです。
今作はその「伊坂節」が満載で、「待ってました!」と心の中で相槌を打ちながら読んでいました。
物語自体もリアリティの中にいきなりファンタジーが混じってくるので、これが伊坂作品初めての人なら面食らってしまうかもしれませんが、私はニコニコしながらその世界に入っていきました。
もともとリアリティの世界にあまりリアルじゃないセリフが登場するのが伊坂ワールドですので、その中であればどんどん飛躍してください。こちらは受け入れ態勢万全です。ばっちこーい、です。
もうひとつ、私が伊坂作品を好きなのは、作品の世界が「基本的に善」だからです。登場人物がみな善人で楽観的で熱くない前向き。もちろん悪人も登場するのですが、それもどこか憎めないキャラクターが多いです。
湊かなえさんの作品も好きなのですが、人間の内面に潜む毒を容赦なく描くので、読み終わったときにその毒に当てられてしまい、ぐったりしてしまうことがあります。
なので、途中までは「これは伊坂ワールドの集大成だ!」と思って読んでいたのですが、ラストの大団円がイマイチ爽快じゃない。
リアリティからファンタジーに飛躍して、それがまたリアリティに戻ってくるので、ちょっと無理くり感が出てしまうのです。ここはファンタジーのまま、「孫悟空」のまま突っ切ってしまえばよかったのに。
現実との整合感は置いておいていいので、クライマックスでばちこーんと伏線を収束させてくれればいいのに。
リアリティに着地させることにより、予言と現実は正確には一致せずカタルシスは薄れるし、本当の予言でないのにほぼ当てた眞人君がすごいことになっちゃう。ばっちり予言的中させて、その理由はファンタジー、でいいのに。
でも、面白かったです。
文庫版の解説は「何だかイマイチ」みたいな書き方しやがってこの野郎。
さて、映画化お願いします。ラストはファンタジーのままで、リアリティよりもカタルシスを優先して作って欲しいです。
よろしくお願いします、中村監督。そして濱田岳さん。あともちろん斉藤和義さん。
次は「マリアビートル」を読みたいのですが、早く文庫にならんかな。
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