アルバムタイトル『ドラム』でもいいと思う
RHYMESTERのNEWアルバム『ダンサブル』が出ました。名盤名盤!
RHYMESTERは毎回アルバムを出すたびに前作からの揺り戻しをしています。メジャーデビューアルバム『ウワサの真相』とそのバージョンUP版『ウワサの伴奏』は豪華な客演がたくさんでメジャーデビューに相応しい賑やかなアルバムでした。次の『グレイゾーン』は客演ゼロでトラックもリリックも渋い内容で、それが大成功。『HEAT ISLAND』はCDの収録時間目一杯使って客演も多数起用。ラスト曲はFGクルー(プラス童子-T)大集結でまさに発売時のキャッチコピー「パーティー地獄」でした。
復活後の『マニフェスト』は「RHYMESTER IS BACK」を高らかに宣言する力強いアルバムで、次の『POP LIFE』では日常を歌うアルバム。その反動で『ダーティーサイエンス』は汚ったねえ音像(褒めています)でトラックもリリックも力強く荒々しい内容でした。
そして前作『Bitter, Sweet & Beautiful』は日常を美しく生きようというテーマ。そのせいでトラックもリリックも落ち着いて重い。シリアスな内容で、「言っていることは正しいけどあまり楽しくないな」という感想でした。
で、今作は『ダンサブル』。まさしく「ダンサブル」な内容でした!
10曲で41分というタイム感もいい。JINさんのイントロがないのは少し残念ですが、そんなのは些細なこと。タイトでファンキーでグルーヴのあるトラックと、享楽的のみではない中身のあるリリック。でもそれも前作のような「きちんと説明して伝える」よりも軽やかで「Don't think,feel」みたいな「体感として伝わる」感じの内容でした。
ジャケットについては不問。でも、私ですらお店で買うときに少し恥ずかしかったので、あまりファンでない人が手を伸ばすには少しハードル高いかも。
彼らのバランス感覚は素晴らしい。実際前作が出たときの「この不確かな世界の中では右か左か、進むか退くのかよりも『美しい』が生きていくための指針だ」という彼らの言葉は正しいと思うのですが、それが作品に落とし込まれると「分かるんだけど理屈っぽいんだよな」とか「分かるけど楽しくない」になってしまい(あくまで私の感想です)、彼らの狙いが思ったとおりに着地しなかったのではないでしょうか。
Mummy-D 前作「Bitter Sweet & Beautiful」を作ったあと、「ちょっと難しいアルバムを作っちゃったな」という思いがあったのね。
そして、このアルバムのMVPは「ドラム」です。打ち込みビートでもドラムだけ生でもドラムはサンプリングでも、どの曲もドラムが大活躍です。このアルバムをダンサブルに、肉体的にしているのは間違いなくリズムの骨であるドラムです。『爆発的』でのHUNGERの「ドラムを聴けば全部わかる ドラムは人だ 骨だ 大黒柱」というリリックの通りです。
RHYMESTERはそれぞれのMCがどちらもリリシストでヴァースごとに独立したいいリリックを書くのでこれまで掛け合いの曲はあまりなかったのですが、今作では『Back & Forth』で掛け合いラップをかましてくれています。
これがカッコいい!ラップというフィジカルな表現の強さを再確認できる曲になっています。ラップってかっけえ、楽しい、スキルがすごい、グルーヴが増す、等色々考えてしまいます。
このアルバムは冒頭3曲があまりにカッコよく、聴きながら良過ぎて笑っちゃうのですが、次の『梯子酒』ではちゃんぽんサウンド(「ちゃかぽか酩酊サウンド」でも「どんちゃんサウンド」でも可)とリリックの内容に笑ってしまい、『Don't Worry Be Happy』ではオシャレなジャズのトラックをバックに何歌っとんねんというギャップの面白さ、そして後半に向かってグルーヴと爆発とキラキラがあって本編ラストに相応しい『カミングスーン』が来る。各曲の置きどころもよい!
しかし、ラストの『マイクの細道』だけはこのアルバムから浮いているように感じるのです。ここまで「ダンサブル」なアルバムだったのに、ここにきてトラックもリリックもシリアストーン。ドラマの主題歌のオファーがあって作ったからか、アルバム全体のトーンから外れているように思えます。
なので、置きどころはここしかないよなー。ライブだとどうするんだろ。後半の盛りあがり手前に置いて「熱狂まであと5秒 4,3,2,1」で次の盛りあがり曲につなげるのかな?もしくはド頭1曲目かな?といらぬ心配までしてしまいました。
もうひとついらぬ心配をすると、このアルバム冒頭の3曲に顕著なのでアルバム全体の印象にも影響が及ぶのですが、「オールドスクールなアルバム」に聴こえる可能性があります。EDMやトラップ等の現代の最新サウンドを扱いかねるオジサンたちが懐古趣味に走っているのでは、という批判。これに関する有効な反論は思いつかないし、その批判(この批判自体私の妄想なのですが)の通り懐古趣味で自分たちの得意技で作っているのかもしれません。
しかし、たとえそうであっても、いいアルバムなんだからそれでいいじゃん、としか思えません。「手法はどうあれ、いい作品ができた」ことが全てでしょう。
結論。グルーヴに腰が踊り、リリックにクスリと笑い、そして唸らせる。大傑作じゃないですか!大傑作ですよ!やったー!俺たちはやったんだー!えいえいおー!と何も関係ない私まで勝ち鬨をあげたくなる名作です。このエントリを読む人は(そしてここまで読んでくれる人は)既にライムスファンしかいないと思いますが、何とか外側まで広げたいなあ。名作なので。
さて、アルバムの各曲の感想も書きたいのですが、既に2,300字以上書いてしまったのでそれはまた次回。しかし今は私生活が忙しいので、書けるのはだいぶ先になるかもしれません。でも必ず書きますので、しばしお時間をください。
RHYMESTER過去作レビュー↓
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