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映画『流浪の月』感想

役者の仕事は台詞を言うだけではない


映画『流浪の月』を見てきました。
gaga.ne.jp

李相日監督作品としては『フラガール』『悪人』『怒り』に次ぐ4作目。
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過去作の感想を読んでもらえれば分かるとおり、李相日監督自体はそれほど大好きではありません。大仰な演出がダサいなーと思うことはあります。それでも、本作は広瀬すず×松坂桃李という組み合わせ。そりゃ見に行くよね。

(すみません、ピントが…)


以下、ネタバレあります。ちなみに原作は未読です。


よかったです。「映画」を見た。


冒頭で広瀬すず(更紗)と横浜流星(亮)のベッドシーンがあり、そこでは「私も広瀬すずとベロチューしておっぱいまさぐって濡れ場演じたい」なんてゲスい気持ちで見ていたのですが、すぐにそんな下品な気持ちはどっかいきます。広瀬すずが素晴らしくて。
あとね、昨今の日本映画のニュースを見聞きしたり最近の世の中の情勢を考えると、こういう長いベッドシーンっているのかな?とも思ってしまいました。セックスした、だけでいいじゃん。チューしてごそごそしてすぐ次の場面でいいじゃん。その際の二人の感情がどうなのかは仕草や表情で表せるじゃん。そこまで長く映す必要ある?


15年前、雨が降ってきたのに公園から帰らない少女・更紗に声をかけ、家に連れていった文(ふみ)。その後共同生活を送り、2ヶ月後に逮捕。世間はロリコン誘拐犯罪者と断罪しました。
更紗は、父を病気で亡くし母は恋人と逃避行し、現在は伯母さんと暮らしている。しかしその伯母の中2の息子から夜な夜な性的ないたずらをされている。そんな環境へは戻りたくないと文との生活を選んだ更紗。


15年後。事件のことは結構周りでも知られている。それに対して「慣れちゃった方がいろいろ楽だよ」と達観した姿勢を見せる更紗。それは「気にしていない」ではなく「そうしなければ気持ちを保てないから」ですよね。
そうやって何とか生きてきた更紗でしたが、たまたま寄ったカフェで15年ぶりに文(松坂桃李)と再会します。文は自分に気づいていないのかあえて素知らぬふりをしているのか。
気になる更紗はそのカフェに通うようになります。それを怪しいと思う婚約者の亮は職場に探りの電話を入れたりカフェに現れたりします。それは愛情故の束縛なのか。
亮の実家で亮の妹?姪?から「元カノもDVっぽいことされてた。実家に問題があって帰る場所のない女性を選んでいる」ということを吹き込まれます。彼の行動は愛情・束縛・モラハラ・DV、どれなのか。
意を決して文に会いに行く更紗。そこで文が女性と付き合っていることを知ります。「よかった。文が普通の幸せを手に入れた」と喜ぶ更紗。喜びだけなのか?寂しさもあるのか?
職場の噂好きママたちに呼び出されて見せられたネットの記事。あのロリコン犯がこの近所にいるらしい。危ないわよ、あなたに知らせた方がいいか迷ったんだけどね、と同情してくれるママたち。動揺する更紗に「大丈夫?」と優しい言葉をかけるママたち。おめーらがやっているのは善意と哀れみを装った野次馬だよ!わざわざ記事見せつけて「大丈夫?」じゃねーよ!
文の写真をネットにばらまいたのは亮でした。何でこんなことしたの?彼がこれまでどんなに大変だったか分からないの。詰め寄る更紗に対してグーパンチをお見舞いする亮。「あいつはロリコンの犯罪者だろ!あんな奴のどこがいいんだよ!」とさらに蹴る殴る。
何とか逃げ出して鼻血まみれの顔で街を歩く更紗。うずくまっているところに声をかけてくれたのは文でした。15年ぶりの再会。更紗は、性的暴行はなかったと証言するも信じてもらえず、伯母の息子のことは言えなかったため文が犯罪加害者となってしまい、文の人生を壊してしまったことに対して罪悪感を持っていました。
亮から逃げ出して文の隣に部屋を借りて新生活を始めた更紗。楽しく生活ができていたのに、ネットや週刊誌はそれを許してくれません。記事になり、勤め先の本社は「ウチの社名を出すのはなんとしても避けたい」と言います。
その頃、職場の同僚が恋人と旅行に行くので娘を数日預かることになります。文とともに面倒を見ていましたが、同僚はそのまま帰ってこない。
その後、アパートには怪文書がばらまかれ、文のカフェの建物にはスプレーで落書きがされ、通行人からは興味本位でスマホを向けられます。
文は恋人・あゆみ(多部未華子)から「あなたが私としなかったのはロリコンだから?」と訊かれそうだと答えます。「大人の人ともできるんじゃないかと思って。利用したみたいでごめん」
怪文書の件で更紗が亮の家を訪ねると、亮は精神的に弱っていました。自分のことを愛してくれると思っていた女性の裏切り。その結果、自傷行為を行い警察沙汰になります。
警察署内で週刊誌の記事を元に文との関係や預かっている少女のことについて訊かれる更紗。「中瀬亮の件ですよね?」と言っても聞いてくれない警察。「佐伯文を引っ張ってこい。少女を保護しろ」と部下に指示します。
文のカフェに警察が押し入り、少女を保護するとともに文に任意同行を求めます。少女を連れていこうとする警察に激しく抵抗する文。
更紗がカフェに来ると、文は隅っこで体育座りをしていました。再び文の人生を壊してしまったことを謝る更紗。そこで突然服を脱ぎ出す文。文は体の成長が不完全で、第二次性徴を迎えることができなかったのです。
文と人生をともにすると決めた更紗。僕と一緒にいるとまた世間に叩かれるよ。そうなったらまた別の場所で生活すればいい。流浪の月。


作品は150分と長尺なのですが、それに見合った物語の長さでした。こういう話なのでDV夫から逃げて運命の人と駆け落ちする的な話なのかなと思っていましたが、それはまだお話の中盤。そこからが本筋です。
ゆっくりじっくり撮るのでテンポは遅めだし過去の同じシーンを何度も出すので、もう少しすっきり短めにできたのではとも思いますが、見ている間はそんなにダレることなく見ることができました。
それはたぶん撮影監督ホン・ギョンピョの力。自然光を上手く生かした撮り方で、「映像として美しい」と思えるショットの連続でした。あと、映画って雨粒を映すために常に土砂降りにしがちですが、本作は小雨で撮っており、それも自然でとてもよかったです。
劇伴もよかった。緊張感のあるピアノ。途中の文と更紗の楽しかった思い出のシーンで明るい曲だったのはちょっと違和感あったけど。


長くてゆったりとしたテンポでも見ることができたのは物語の力や撮影の力だけでなく、役者の力も大きいです。
広瀬すず
これまでは「いるだけで輝いている」というスター俳優であり、若さゆえのきらめきもありましたが、本作は完全に「俳優としての力」で輝いていました。目の表情が素晴らしい。しゃべらずとも心の機微を伝えてくれます。
途中、文との再会後にスワンボートを漕ぐシーンで、本作中数少ない心からの笑顔を見せてくれます(それ以外は社交辞令的な愛想笑いばかり)。そこがよかった。やはり輝いているぜ!
いつも暗めの服を着ているのも目立たないように生活をするためなんだろうな。
松坂桃李
彼はどの役でも素晴らしい。本作は感情を面に出すことの少ない役でしたが、それでも十分喜怒哀楽を演じてくれました。本作では激やせしていますが、それは文というキャラクターに説得力を持たせるため。そしてもちろんラストの裸のシーンのため。
母からのネグレクトのせいで彼は感情を表に出さない人間になったんだろうな。そしてその彼を救ってくれたのが更紗なんだろうな。
横浜流星
私は彼の演技を見たことがなかった(Wikipediaを見たら『中学生円山』に出演しているそうですが、全然記憶にない)のですが、彼はこういう役が似合うねー。愛情溢れる→反転してモラハラDV男に。こういう役が似合ってしまうのは彼のブランドイメージにとってマイナスかもしれんけど。
ラストで精神を病んでしまうけど、そこまで執着するかな?次なる獲物を探せばいいのに。あと、彼のやったことはひどくて悪いことだけど、彼の言い分(再び文と会うなんておかしい)は理解できます。そういう面でDV男のみの描き方でなかったのは救い。


脚本上気になる部分がないわけではありません。
文の彼女のあゆみは、どうして彼と付き合うことになったのか。彼のどこに魅力を感じたのか?馴れ初めは?
未成年同士の事件なのにマスコミは名前出すかな。
ラストの警察のやり方。いくら任意同行とはいえあんな乱暴なやり方するかな。少女の親に連絡するなどもう少し確認してから動くのでは。
そしてそもそも、いくら性的暴行がなく本人の意志でそこに居続けたとしても、未成年者の誘拐には変わりありません。更紗の家庭環境が心配なら児童相談所などに連絡をすべきです。


とはいえ、そんな世間の事実や常識とは異なる関係性であった二人なので、世間の正しさと二人の間の正しさは別のものです。二人の選択が正しいかどうかなんて、私たちが判断できることじゃない。


というわけで、李相日作品ではいちばんよかったです。お話(脚本)だけでなく映像や演技でも楽しむことができました。これぞ映画。これが映画。


広瀬すず過去記事いくつか。
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松坂桃李過去記事いくつか。
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