やりやすいことから少しずつ

好きだと言えないくせして子供みたいに死ぬほど言ってもらいたがってる

2020年10月ツイートまとめ

映画『望み』 感想

テレビ監督


映画『望み』を見ました。公式サイト↓
nozomi-movie.jp
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原作は未読です。つーか、原作が雫井脩介さんだとは知らずに見に行っていました。雫井脩介さんは『火の粉』があまりにもよくて、それ以降読んだ『ビター・ブラッド』『犯人に告ぐ』『犯罪小説家』などはそこまではまらず、というファン歴です。


出ている役者さんや作品のテーマは私好みですが、気になるのは堤幸彦監督作品ということ。私はテレビドラマを見ないので『トリック』も『SPEC』も知りませんが、映画『20世紀少年』『BECK』はどうにも絶賛できる内容ではなく、近年の映画監督作品も監督名で遠慮しちゃう状況でした。


さて、どうなる。


物語は面白かった、演出はうーむ。でした。


息子は加害者(殺人者)か、被害者(亡くなっている)か。父は犯人でないことを望み、母は生きていることを望む。
無実であれば亡くなっていても仕方ない。息子は人に暴力を振るうような子ではない。無実を信じる父。
生きてさえいれば犯人でも構わない。覚悟を持って事実を受け入れる。今の生活がどうなっても構わない。生存を信じる母。
そうか、「望み」ってそういうことなのね。


犯罪に関与している(かもしれない)という状況だけでもヘビーですが、そこで家族の「望み」が違うというすれ違いも描く。おお、新しいな。
娘は「兄が犯人だと困る」という立場。私立高校の受験を控えた今、身内から犯罪者が出たら受験どころではない。それどころか、転居や転校もありえる。それは「困る」のです。利己的かもしれませんが、素直な本心です。


物語としてはとても面白かったのですが、少し気になった点を。
冒頭、建築士の父はお客に自宅を公開し、リビングだけでなく子供部屋や浴室までお客に見せます。いくら事務所が隣だとしても、そこまでする?中高生の子供部屋を、まったくの他人に見せる?
ここはキャラ紹介のためだけだったのかな。私は「仕事熱心で家族の仲もいいと思い込んでいる父」に見えて、それが何かの伏線だと思っていたのですが、特に何もなし。あの父でいいのか。


失踪した息子が容疑者かもしれないということでマスコミに追われる一家。この家がこんな状況なんだから、他の失踪者の家だって同じ状況のはずなのに、途中まで「他の失踪者は警察が明かさない」ということで情報なし。そんなことないよねー。SNSでいろいろ書かれるでしょ。警察が明かさなくてもマスコミは押しかけるでしょ。
そして、いつのまにか「現場から逃げたのは2人、失踪者は3人、だから残りの一人は死んでいる」が確定情報みたいになっていたけど、それだって単なる推測ですよね。まあ、それがなきゃ「殺人者か死亡か」という究極の望みにならないから仕方ないけど。


もうひとつ。細かいことですが、息子のLINEがアイコンなし。高校生のLINEでアイコンがデフォルトのままのわけねーだろ。そういうディテールにこだわってよ。


それでも、物語は面白かったです。たぶん原作のおかげ。しかし、演出はうーむ、でした。


カット割りやカメラアングルは突飛なことをやらずに見やすくてよい。アップが多いなーとは思いましたが。
しかし、音楽とスローモーションが気になって…。
緊迫した場面で緊迫した音楽!ショッキングな場面でショッキングな音楽!感動する場面で感動的な音楽!ベタではない、下手だ。テレビのワイドショーじゃないんだから。
そして、エモい場面では何度でもスローモーション。スローモーションの演出、ダサくね?
母が何度も息子のことを思って泣くシーンや息子の部屋で小刀を見つけた父のシーンとかも、長い。「ここ、感動する場面ですよー」の念押しがダサい。大丈夫、観客は分かるから。もっと観客を信じてくれよ。


また、息子が見つかってからが長い。もっとさっぱりと終わってよいよ。火葬場で遺影をじっくり見せたり(チラリで分かるから!)、火葬場の廊下を歩いて待合室に入り家族の肩に手を置くとか、いらなくね?葬式→部屋に骨壺、でよくない?
赤い工具箱も、「これ、重要ですよー。覚えておいてねー」としつこくじっくり映す。分かるから!大丈夫だから!


確かに分かりやすいですが、映画館で集中して見ているお客にとってはクドい感じがするのです。テレビドラマならこれでよいのかもしれませんが。
堤幸彦監督がテレビドラマでは評価され、劇場作品ではそうではないのは、こういうところなのかな?私はどちらもあまり見ていないので断定はできませんが。


あー、物語は面白かっただけに、他の監督が手がけたらもっと面白かったかもなーと思うとちょっと残念。
でも、いい点もありましたよ。
まず、あの家。住宅展示場のモデルハウスのようなステキな家(内装はセットだそうです)と、隣の事務所。オープニングは周辺の街をドローンで映すので、周りの状況も含めてぴったり!よくぞ探したな。
そして車は黒のハリアー。うむ、ぴったり。
あと、役者の皆さんはみんな素晴らしかった!警察の二人は除く。なぜあんな無愛想・能面にするのか。


堤真一
役者として、上手いなあ。私の中で役所広司などと同じ「上手い役者」の箱に入っています。どの場面も上手かったですが、中でも息子の遺体と対面する場面。手を伸ばして息子に触れたいけど現実を受け入れたくない葛藤が上手かった!
石田ゆり子
基本泣いて息子を案じるだけなので、評価は難しい。アップに耐えるお肌と髪の毛は美しい。
●岡田健史
無口な息子。高校生男子は親に「別に」「普通」「ちょっと」しか言わないのでその点は合格。しかし、言い方があまりしっくりこない。サッカー部と帰宅部(私)の違いか。
●清原果耶
可愛いのはもちろんですが、演技がまあ上手い上手い。言い方から間から表情から、完璧じゃないか。言うことなし。
松田翔太
ちょうどいい怪しさ。ラストの取材を断る場面は、いい奴すぎないか。もっとゲスいキャラでいいのにな。自分はやりたいけど編集長に却下されたとかでいいのに。


望み (角川文庫)

望み (角川文庫)

映画『星の子』 感想

相性


映画『星の子』を見ました。公式サイト↓
hoshi-no-ko.jp
原作は未読です。


むむむ。何も感じ取れませんでした。
物語が、今何を描いていてどっちへ進んでいるのかが分からず、入り込めないまま見ていたらあっけなくエンド。え、ここで終わり?
宗教のヤバさを描いているのか、それに翻弄される主人公を描いているのか、家族の崩壊の予兆なのか。今、何の時間?このエピソード、どういう意味があるの?例えばちひろ芦田愛菜)の下校シーンが無駄に長く、この歩いているシーンいる?と思いながら見ていました。


生まれたときから宗教があることが当たり前の生活。何の疑問もなく生きてきたが、成長するにつれて自我は育ち、周りとの違和感を感じ、自分の境遇を見つめ直す。
そんな作品だと思って見たのですが、そうなんだけどそうでもない、なんともぼんやりとした着地になりました。


物語の後半で親戚から「実家を離れてうちに来ないか」と誘われてもきっぱりと断るちひろ。この時点では宗教を信じているからではなく、今の家庭環境に疑問を持っていないから、という段階です。
その後、憧れの教師から厳しい言葉を浴びせられ、傷つくちひろ。この時点では自分の家の宗教はおかしいのでは?と疑問に思ったのかな。単に憧れの教師からの言葉に傷ついた(振られた)だけなのかな。ここが読み取れませんでした。
さらにその後、教団の宿泊研修で、教団から入信の強制があるわけでもなくちひろの疑念が描かれるわけでもなく、何となく進む研修の様子。途中「お母さんが探していたよ」という意味深なセリフとなかなか会えない・姿が見えない状況に、これは何かあるのかなと思っていましたが、特に何もなく親子で星空を見上げておしまい。
うーん。


ラストの「もう帰らなきゃ」「まだいいだろ」「大浴場の時間が」「今は時間なんて気にするな」という親子のやり取りは、抜け出そうとしているちひろとそれを引き留める親という構図なのでしょうが、その前にちひろに迷いや葛藤が見えなかったため、伝わらなかったです。


それぞれのエピソードがちひろに対してどういう影響を及ぼし、彼女は何を思ってその後の行動になるのか。インプットとアウトプットが反映していない感じがしました。
また、ちょいちょい長回しがあるのですが、それもどういう意図・効果があるのかも分かりませんでした。


大森監督の『MOTHER マザー』もはまらなかったので、私は彼と相性がよくないのかもしれない。
ese.hatenablog.com


役者について
芦田愛菜
実は10万15歳の芦田愛菜なので、演技は申し分ない。ただ、この作品の主人公は受け身の演技なので、芦田愛菜でなくても、というより芦田愛菜でない方がよかったかもしれません。もっと能動的な芦田愛菜作品を見たいです。学校忙しいので難しいかもしれませんが。
永瀬正敏
あまり印象なし。
原田知世
永遠に美しい原田知世さんですが、本作はほぼすっぴんのため、途中「木村多江さんかな?」と迷う瞬間もしばしばありました。
岡田将生
イケメン先生。『告白』や『悪人』のような「イケメンだけど薄っぺら」という私の岡田将生像を覆す、ちゃんとしたイケメン先生でした。よかったです。
大友康平
本作のMVP!「普通のおじさん」がめちゃ上手い!奥さん役の女優もよかったです。
高良健吾黒木華
宗教の人がぴったりだなー。曇りのない笑顔に狂気を宿す。


星の子 (朝日文庫)

星の子 (朝日文庫)

2020年9月ツイートまとめ

映画『TENET』 感想

ノーランの強さがほしい


映画『TENET』を見てきました。公式サイト↓
wwws.warnerbros.co.jp
公開直後に見たときは、途中までは「分かるじゃん」と思いながら見ていたのですが、途中の高速道路から「何が何やら」で、クライマックスの挟撃作戦では「何が何やら、誰が誰やら、順行なのか逆行なのか」全然分からなくなりました。
そこで、見終わってすぐさまパンフを買い(私の次の人も『TENET』のパンフ買っていた)、家に帰ってネットを徘徊し、理解した上で2回目に臨みました。


読んだ記事(の一部)
fansvoice.jp
↑これは映画を見る前に読んでもいいです。↓その他はネタバレ含みます。
eiga.com
shinsho-plus.shueisha.co.jp
note.com
natalie.mu
ameblo.jp
数々のネタバレ解説があるので、この記事ではストーリーについては触れません。
これらの記事のおかげで2回目は(ほぼ)理解することができました!


クリストファー・ノーラン監督についての私のイメージ。
●シンプルなことをわざわざ哲学的に語りたがる
●時間大好き(オリジナル作はほとんどが時間を扱った作品)
●映画大好き・フィルム大好き・IMAX大好き・実写大好き
●自分大好き
●自分が好きなことはみんなも好きに違いない


本作はこれらの特徴が集大成のように凝縮・渋滞・爆発しています。
とにかく本作は「時間の逆行」について触れなくてはならない。で、その前にノーラン作品の「時間」について。
●『メメント
エンディングから遡って見せる。
●『インソムニア
不眠症・白夜で時間感覚を麻痺させる。
●『プレステージ
あのマジックのタネは時間を永遠にする手法だ。
●『インセプション
そもそも夢は時間軸自由自在。
●『インターステラー
宇宙は時間と重力と光の世界。相対性理論
●『ダンケルク
3つのパートで流れる時間軸が違っている。


どれも「時間」が映画の手法に取り入れられています。それが本作は、「時間」そのものを物語に取り込んだ作り方になっています。
タイムトラベル・タイムスリップものはこれまでいくつも作られてきましたが、本作はそれらとはまったく違う時間の「逆行」です。通常どおり進む時間の中を、自分だけが遡っていく。そこでは重力は通常どおりだが、熱の伝導や空気の流れなどは逆という世界。頭で考えるだけでもうわーんと投げ出したくなるこの世界を、映像として具現化させなければならない。ノーランはもちろんのこと、周りのスタッフも頭おかしくならなかったのかな。私はなった。


空港でのジャンボジェット機を倉庫にぶつける場面。ノーラン監督だから実写で現物でやっていることが分かるので、それで笑いながら見ていました。もう実物をぶつけることが目的になっていて、ストーリーの方がジャンボジェット機に合わせて作られている。
これは、CGでなく実写だから面白いんですよね。CGで何でもできる今の時代に「実物をわざわざ!」という面白さ。トム・クルーズがスタントなしで自分自身でアクションをやっているのと同じ。でも、それって「映画の中のアクションのすごさ」としてはねじれた評価の仕方ですよね。「映画としてこのアクションがすごい」でなく「実物だから・トム本人だからすごい」ってのは正しい見方なのか?


ノーラン監督、あなたはすごい。これらの無理難題を映像化することもそうですが、「俺の頭にある映像をみんなに見せたらみんなも面白いと言うに違いない」という自信がすごい。フィルムやIMAXへのこだわり、CGでなく実写で撮影するこだわりも、「俺がそうしたいからする。金が掛かっても、それ以上ヒットすればいいんだろ」という自信だし、とそれを実際成し遂げているところもすごい。
ノーラン監督は、自分が大好きで映画が大好きで自分の作った映画が大好きなのです。
だってこの作品、初見で全部を理解することなんて絶対に不可能じゃないですか。それをやる(やらせてもらえる)ってのは、それだけ自分と作品に自信があるから。難しいけど、2回見てもらえば分かるだろ。それでも分からなければ3回見ればいい。それだけの自信とこれまでの実績があってこそ、こんな難解な作品をオリジナル脚本でブロックバスター(超大作)作品として作ることができるのです。
ノーラン監督、あなたはすごい。


ノーラン監督作品エントリ↓
ese.hatenablog.com
ese.hatenablog.com
ese.hatenablog.com
ese.hatenablog.com
ese.hatenablog.com
ese.hatenablog.com
ese.hatenablog.com
ese.hatenablog.com
ese.hatenablog.com



TENET (Original Motion Picture Soundtrack) [Explicit]

TENET (Original Motion Picture Soundtrack) [Explicit]

  • 発売日: 2020/09/03
  • メディア: MP3 ダウンロード